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傷と絆10

「高校の時に、秋音も乗る予定だった母親の車が事故に遭って、母親を亡くしている。7年前には秋音を庇った身重の奥さんが命を落とした。こちらに来てすぐ、車にはねられ記憶を無くした。そして先日、仙台でも轢かれそうになって怪我を負った」 貴弘は愕然として、父を見上げた。 「母親が死んだ事故は、関連があるのかはまだ分からない。だが後の3回は確実に秋音本人を狙ったものだったそうだ」 「秋音を、狙って?どうして……そんな……」 呆然と呟く貴弘の様子に、大胡は内心安堵しながら 「秋音はな、最初、私とおまえを疑っていたようだ。自分の命を狙っているのだとな」 貴弘ははっと息を飲んだ。 「父さんと……俺を……」 「我々との関係が関係だ。しかも父の残した莫大な遺産という動機もある。離れて生きてきた秋音にしてみれば、当然の疑惑とも言えるだろうな。だが、私は自分が犯人ではないことを知っている。そして、おまえが犯人ともどうしても思えなかった。秋音への感情や動機の点で言えば、おまえが一番疑われる立場だろう。だが、おまえは自分の利益の為に、殺人を計画するような人間では断じてない」 貴弘はぼんやりと天井を見つめた。思い出すのは、雅紀の悲痛な叫び。 『あの人は俺の全てですっ。お願いっ。あの人を殺さないで!傷つけないで!お願い……っ』 ……そうか。そういうことか。雅紀のあの時の言葉は……そういう意味だったのか……。 ようやく腑に落ちた。雅紀は、俺が秋音の命を狙う犯人だと思っていたのだ。 総一のセカンドハウスで、1度は俺を完全に拒絶したはずの雅紀が、やり直したいと自分から連絡をくれた。その時に感じた違和感は、やはりこれだったのだ。 雅紀は、秋音の為に、自分にもう一度近づこうとしたのか。愛する秋音の命を守る為に……。 急に黙り込み、放心したように宙を見つめ続ける貴弘を、大胡は気遣わしげに見守った。 貴弘にとっては、寝耳に水のことばかりだろう。自分の出生の秘密も、秋音のことも。 「雅紀~。お湯たまったぜ。おまえ、先に入るか~?」 風呂の湯を確認しに行って戻ると、雅紀は布団の上にちょこんと座っていた。そろそろと顔をあげて、暁の顔を見る。その顔が心なしか赤い。 「なに可愛い顔しちゃってんの。顔赤いぜ。どした?」 「ううん。何でもない。……あのね、暁さん。……一緒に……入っちゃ……だめ?」 もじもじしながらそう言って、首を傾げる雅紀に、暁はにかっと笑って 「いいぜ、もっちろん。どうせおまえ先に入ったらさ、後から襲いに行くつもりだったし?」 暁は雅紀の側まで行って、万歳する彼の腕を掴んで、ひょいっと引き起こした。雅紀は恥ずかしがりながらも、素直に甘えるように、暁の腕の中にすっぽりと収まる。 「な、雅紀。甘えたい時はさ、こうやって素直にいつでも甘えろよ。おまえは俺の恋人なんだからさ、それは当然の権利なんだぜ」 「うん。……暁さんも……ね。甘えたい時は俺に甘えて。俺、ちゃんと受け止めるから」 「そか。じゃ俺も辛い時はとことん甘えるからな。さ、風呂入ろうぜ」 そのまま雅紀を連れて行こうとすると、雅紀は何故かいったん暁の腕を離し、テーブルの方に向かった。どうするのかと様子を見ていると、テーブルの下の救急箱を引き出し、中からボトルを取り出して、暁の視線から隠すように後ろ手に持つ。 暁は素知らぬ顔で、雅紀を手招きすると、手を繋いで風呂場に一緒に向かった。 雅紀が隠し持ったのはローションだ。多分、風呂場で自分の後ろをほぐすことを考えて用意したんだろう。妙にもじもじして赤い顔をしていたのは、この後の行為を想像していたからか。 さっき、とろとろに蕩かしてやるとは言ったが、暁は別に今無理にひとつになれなくても構わないと思っている。でも雅紀はきっと、さっき挿れられなかったことに、まだこだわっているのだ。だったら、雅紀の不安が消えるまで、好きなようにさせてやろう。多少無理をしても、繋がることで雅紀が安心するのなら、思うようにさせてやればいい。 以前は遠慮したり意地を張って、なかなか甘えようとしなかった雅紀の心が、少しずつほどけてきている。甘え方を知らずにいた寂しがり屋の仔猫の、ちょっとずつの変化が嬉しい。 「洗い場狭いからな、おまえ先に身体洗って、湯船に浸かってな」 「うんっ」

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