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第3章 こころのかけら1
「足、崩さないの?」
あきらの一言に、机の上に並べられた串盛りを、ぼーっと見つめていた雅紀は顔をあげた。
自分を気遣わしげに見ているあきらと、目が合って慌ててそらす。
さっき、思いがけず爆発させてしまった感情の名残が、まだ胸の奥に燻っている。
ビールは乾杯の時に一口飲んだきりだから、今自分の顔を火照らせているのが、酔いのせいじゃないことだって……わかってる。
「なあ。まだ怒ってる? なんかほんと……悪かったよ。振り回しちゃったみたいでさ」
あきらはというと、ここまで連れてきた強引さが嘘みたいに、しんみりした口調で、さっきからずっと、まるで独り言を言ってるみたいだ。
「怒って、ないです。それに、謝って……欲しいんじゃなくて……」
「あーうん」
「理由、教えてください。俺をここに連れてきた理由」
「ん~……理由って言ってもなぁ。1人で飯食うのいやだったし」
「だからって、なんで俺? あきらさん、背高いし。黙ってたらイケメンだし」
「……黙ってたら、かよ……」
「モテそうだし。俺みたいな男、連れてくるより、可愛い女の子、の方がいいでしょう?」
「うーん…別にモテないぜ~俺。おっさんだし。それに言ったじゃん、待ちぼうけくったんだって」
「あ。それは嘘じゃなかったんだ…」
雅紀の突っ込みに、あきらはバツが悪そうに、鼻の頭をポリポリかきながらそっぽを向く。
「職場の同僚だよ。晩飯食おうって誘ったの」
「女の人?」
「んーまあ、そう……かなぁ?」
「下心……ありましたよね?」
「はぁ?!」
「だって。2時間も待たないでしょう? ただの同僚だったら」
「ちっ。覚えてたのかよ」
「で、その人に振られて、なんでコンビニで会ったばかりの俺ですか?男ですよ?俺」
「んなこと見りゃわかるよ。華奢だけどな、あんた。でも女には見えない。
んあ~こだわるね~まさき。俺ってさ、そんなに女に飢えてそうに見えるわけ?」
「……」
「……なんでそこで黙るんだよ」
「飢えてそうには見えないです。でも、女の子連れてる方が……しっくりくる。それにさっき、おかみさん言ってましたよね? あきらが男の友達連れてくるなんて珍しいって」
「……細かいこと、ほんとよく覚えてるな~。わかったわかった。降参だよ。本当の理由、ちゃんと言うよ」
「はい。教えてください」
あきらはちらっと雅紀を見て、ビールに手を伸ばし、残りを一気にあおると
「言うけど……怒んないか?」
「怒るような理由なんですか?」
「わかんないよ。まさきの地雷がどこにあるかなんて。ただ、言ったら……怒りそうな気がする」
「そんなこと言われたら、気になって眠れませんよ、俺」
「……じゃあさ、怒んないって約束するなら言ってもいいよ」
「子供ですか。いいから言ってください。
怒るかどうかは聞いてから決めます」
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