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こころのかけら2
はぁ…っとひとつため息をつくと、あきらは煙草を取り出してくわえた。座卓の上の灰皿を引き寄せ、慣れた仕草でマッチを擦ると煙草に火をつけた。
雅紀は正座を崩さぬまま、そんなあきらの横顔をじっと見つめている。
「あのさ」
あきらは深々と吸い込んだ煙を吐き出すと、
「理由話す前に、ひとつ聞いてもいいか?」
「……なにを?」
「俺に似てるっていう昔の知り合いのこと」
「……っ」
何を聞かれるかと警戒していた雅紀の顔が、いっそう強ばる。
あきらは、吸いかけの煙草の先を灰皿の上で転がしながら、顔を上げて雅紀を見つめた。
「似てるんだろ? 俺に。どんくらい? 他人のそら似? そっくりさん? それとも、うりふたつ?」
口を開きかけては躊躇い、雅紀はようやく意を決して口を開いた。
「うりふたつ……かな。わかんないです。最後に会ったのって、もう7年前だし」
「7年前……」
「顔は……似てますね。ほんとそっくり。最初見た時は本人かと思って。俺びっくりして、あきらさんがムッとするくらいずっと見てたでしょ。背の高さとか体格とかも。声も……似てる。あの人を7年分年取らせたら、きっとこんな感じかな……って」
「そっか……」
雅紀はポケットから煙草を取り出し、口にくわえてライターで火をつけようとした。燃料切れなのか、カチッカチッと音だけが響いて、なかなか火がつかない。
諦めて、くわえていた煙草を口からはなそうとすると、あきらが擦ったマッチの火を差し出した。
「あ、ありがとう」
身を乗り出し煙草に火をつけると、深く吸い込み、ため息のように煙を吐き出す。
「いいですね、それ」
「ん?」
「マッチ。なんか格好いい」
あきらは火を消したマッチを灰皿に放り入れ
「そっか~? 女には評判悪いよ、おっさんくさいってさ」
そう言って苦笑する。
「そうかな。いいと思いますよ、渋くて。俺、マッチなんて使えるかな? 火、つけてみたことないかも。でもなんかいいな、格好よかった。マッチ擦ってる仕草とか」
無意識なんだろう。さっきまでの強ばった表情が嘘のように、ちょっと微笑んで、卓上のマッチをいじりながら、うつむいてしゃべってるまさきの横顔に、あきらは、少しの間呆気にとられて見とれていた。
……こいつ……天然かよ。何だよその無防備な笑顔。っつか睫毛ながいな~こいつ。先っぽなんか軽くカールしてるよ。地毛……だよな?って当たり前か、女じゃないんだし。
いやでもこいつ綺麗な顔してるんだよなぁ。あんな顔されると、うっかり可愛いとか思っちまうじゃないか。
「煙草」
「は?」
「灰、落ちてます」
「え? あ。うわっ」
いつのまにか、フィルターぎりぎりまで燃えていた煙草が指先を焦がしかけていて、あきらは慌てて吸殻を灰皿に投げ入れると、こぼれた灰を払いおとした。
「台無しだな」
「ん?」
「せっかく格好よかったのに台無しですよ」
肩を震わせくっくと笑っている雅紀に、あきらはしかめっ面をして
「笑うなよ。どうせ格好よくないですよ~俺、おっさんだし」
「こだわりますね。おっさんって。だってあきらさん、年いくつですか?」
「まさきはいくつ?」
「俺? 28ですけど」
「え? そんなにいってる? 23ぐらいかと思ってたよ」
「……よく言われます。スーツ着てない時なんか、学生に間違われるし」
口をとがらせた雅紀の顔を、あきらはまじまじと見つめ
「あーたしかにな。大学生って言われても違和感ないな」
「酷いな、童顔気にしてるのに」
「なんで? 別にいいじゃん、可愛い顔してるんだし」
「っ……」
雅紀はみるみるうちに真っ赤になって、絶句したまま俯いた。耳まで真っ赤だ。
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