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愛ある。ということ3※

くたっとシーツに沈み込んだ雅紀を潰してしまわないように、暁はその背中に柔らかく覆いかぶさった。 2人とも肩で息をしていた。眩暈がしそうなほどの激しい絶頂と、至福と呼べるほどの充足感。 心も身体も満たされていた。愛し愛されることの歓びに包まれる。 暁はほお…っと吐息を漏らすと、雅紀の柔らかい癖っ毛を指先でくるくる巻いて 「……幸せ過ぎて怖いって、こーゆーこと、なんだろな。俺はさ、神様なんて信じてねえけど、おまえに出逢えたこと、これだけは、神様みてえなもん……いや、運命ってやつか?……それに感謝するぜ」 しみじみと呟く暁に、雅紀は気だるげに顔を向け、ふんわりと微笑んだ。天使のように透き通った笑顔が眩しい。 「なあ、怖くなかったろ?」 「うん。……気持ち……よかった…」 「そか。俺もだぜ。雅紀……。愛してる」 「ん、俺も。暁さん……愛してる」 もぞもぞと仰向けになる雅紀の顔を両手で包んで、深く優しいキスを落とす。 「余裕なくってごめんな。中に出しちまったよな。おまえ、動けるなら俺が掻き出してやるからさ、風呂場に…」 「あのっ……あのね、暁さん…」 遮る雅紀の顔が赤い。ひどく恥ずかしげに目を泳がせて、続きを言うのを躊躇っている。 「なーに。どした?」 「俺の、身体、変……。熱くて……まだ中がびくびくしてる……から…」 言いながらじわじわと頬を染める雅紀に、暁はにやっと笑って 「まだ……俺のこと食い足りねえんだ?……んじゃもう一回……するか?」 雅紀はこくんと頷いて、恥ずかしそうに暁の胸に顔を埋める。 「いいぜ。おまえが満足するまで、いくらでもしてやるよ」 暁は雅紀の顔をあげさせると、その唇にもう一度深く甘いキスを落とした。 病室に1人になってから、目を瞑ってみたが、眠りは訪れなかった。瞼に浮かぶのは、柔らかく微笑む雅紀の綺麗な顔。 父親の手前、強がりを言ってみたが、雅紀を諦めるなんて、そう簡単に出来そうにない。未練がましい自分に自己嫌悪が込み上げてくるが、雅紀の存在はそれだけ、自分にとって特別だったのだ。 寂しい目をしながら、何かを待っていた迷子の仔猫。構ってやっているつもりで、いつの間にか自分の方が救われていた。会えばいつだって安らぎと癒しを与えてくれたから、自分と同じ気持ちを、当たり前に持ってくれてるのだと思っていた。昨年のクリスマスイブに、家族より彼と過ごす時間を優先したのも、誰よりも大切な存在なのだと彼に示したつもりだった。 ……全部……俺の勝手な思い込み……。それだけだったのか……。 自分は今まで、何を見て生きていたのだろう。父親のことにしても、自分自身の出自のことも、そして雅紀のことも……。 目の前に確かにあると思っていたことが、根底から崩れた。これまで自分が積み上げてきたことは、全て砂上の楼閣だったのか……。 貴弘は、静まり返った病室で1人、重い溜息を吐き出すと、目を瞑った。目尻から涙が、こめかみに伝い落ちた。 もう一度、今度はしっかりと互いに顔を見ながら抱き合った。ちゃんと繋がれたことで安心したのだろう。雅紀は萎縮することも怯えることもなく、伸びやかに暁の愛を受け入れ、悦びに乱れた。 眠り込んでしまう前に、風呂場に連れていって後始末をしてから、くったりとしてしまった雅紀を抱き締めて、一緒に布団に入った。 暁は、すよすよと寝息をたてて眠る雅紀を見つめた。その寝顔はひどくあどけない。 ……可愛いよなぁ……。満たされましたって顔して眠っちゃってるよ。こいつ……ほんとに30前の男か? 暁は1人くすっと笑って、雅紀の以前よりふっくらした頬を、指先でつんつんつついてみた。雅紀はちょっと嫌そうに顔をしかめ、もにゃもにゃ言いながら自分の頬をさすっている。 暁は首を竦め、悪戯は止めて、そろそろ寝ようと目を瞑った。 うとうとしかけて、はっと目が覚めた。テーブルの脇で充電中のスマホが、ブルブル震えている。雅紀を起こさないようにそっと布団から出て、スマホを手に取り確認してみた。 ラインのメッセージだ。 相手の名は『 田澤』 急いでラインを開いてみた。 届いたメッセージはかなりの長文だった。文字を読む暁の目が、驚きに見開かれていく。 ……マジか……。んじゃ、犯人は……。

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