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真実への扉2

暁は雅紀の手を外させ、逆に両手首を掴んで唇を奪った。 「……っんっんぅ……ん」 もがいて抵抗しかけた雅紀の身体から、がくんっと力が抜け、暁の強引なキスに積極的に応え始める。 朝から腰砕けな甘いキスの後、唇を離すと雅紀の目が潤んでいた。 「お、ごめん。苦しかったか?」 「ううん。俺…幸せだなって。昨夜暁さんとちゃんといっぱいエッチ出来た。またひとつに……なれたんだ…」 涙ぐむ雅紀の目尻に、暁はちゅっとキスして 「んー泣くなって。これから何回だってひとつになれるんだぜ」 「うん」 雅紀はうっとりとした顔で、暁の胸にこてんと寄り掛かる。 「さてと。今日はおまえ、どうする?朝飯食った後さ、そのまま病院に見舞い行くか?もし身体きついなら、無理しなくてもいいんだぞ」 「身体は……なんともない。外、出るのちょっと怖い気もするけど……。でも、出ないと俺、このまま外出られなくなっちゃいそうで……その方が、怖い」 暁は優しい眼差しで雅紀を見つめ、そっと前髪をかきあげて、おでこにキスをした。 「そっか。そだな。んじゃさ、リハビリのつもりで外出てみるか。よし、朝飯作るから、待ってな。昨日のシフォンケーキ、ちょっとアレンジしてやるよ」 「え。アレンジ?」 「そ。生クリーム手作りして添えてさ。あと、フルーツサラダも作るか」 「わ。美味そうっ。俺も手伝うっ」 「OK。んじゃ、キッチン行くか」 「はいっ」 大胡は苦しげな表情で、腕を組んだ。 「母さんが……実際に何かしていたとは、父さんも考えたくはない。実は数年前から田澤が調べてくれていた件で、ある男の名前が浮上してな。田澤自身が接触を試みた直後に、その男は別件で警察に引っ張られてしまった。だが捕まる前に男は、田澤にある人物の名前を告げていたのだ。片岡……という名前だ。実際に手を下していたのは、今警察にいる男の可能性が高いが、その男に、事故に見せかけた殺人を依頼していた人物は…」 「母さんと……母さんの不貞相手。俺の……本当の父親かもしれない男…」 茫然と呟く貴弘に、大胡は苦渋の表情を浮かべた。 「……その言い方は止めなさい、貴弘。おまえの父親は、私だけだと言ったはずだ」 「でも父さんっ。もしそうだとしたら、俺は……俺は貴方の息子どころか、殺人犯の…」 大胡は貴弘の握り締めた手を優しく叩き 「それは違う。おまえは私の息子だ。父さんはな、その件だけは誰が何と言おうと、絶対に譲らないぞ。だからおまえも胸を張って堂々としていろ。おまえは桐島貴弘。この桐島大胡の跡取り息子だ」 「……っ。とう……さん……っ」 貴弘の真っ赤に充血した目から、涙が溢れ落ちた。 「私はこれからまた警察に行く。拘留された男が実行犯として自供すれば、片岡と母さんにも捜査の手が伸びるだろう。当然、まわりも騒がしくなるが、おまえは誰に何を言われても動じるなよ。私の言葉を信じて、まずはしっかり傷を治せ。……出来るな?」 貴弘は、大胡の目を見つめて躊躇い、目を泳がせた後、無言で頷いた。大胡はにっこりと微笑んで 「それでこそ私の息子だ。じゃあ行くからな」 貴弘の手をもう一度優しく叩くと、大胡は立ち上がり、病室を出て行った。 「まっすぐ病院……じゃないの?」 助手席でそわそわと窓の外を見ていた雅紀が、首を傾げてこちらに顔を向けた。なるべく気を逸らそうと当たり障りのない会話をしていたが、やはり車に乗っているのが落ち着かないのか、雅紀はずっと上の空の生返事だった。 「んーとな。社長からラインもらったからさ、ちょっと事務所に寄って…」 「えっ。事務所、行くの?」 雅紀の顔が途端に引き攣る。 「……ダメか?あそこ行くのは……まだ無理か?」 雅紀は忙しなく視線を動かし、両手を膝の上でぎゅっぎゅっと握り締める。目の下の薄い皮膚がひくひくしているのは、きっとストレスのせいだろう。 暁は脇道に入り、公園の方に向かうと道路脇に車を停めた。 「な。雅紀。落ち着いて、ゆ~っくり息吸ったり吐いたりしてみ。焦んなくっていいぜ」 雅紀は涙目でこくこく頷くと、暁の言う通り、ゆっくりと深呼吸する。吸って、吐いてを何回か繰り返しているうちに、顔の緊張がほどけてきた。

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