330 / 377

真実への扉4

「早瀬に君のことは任されていたのに、目を離してしまった僕の失態だ。酷い目に遭わせてしまって……悪かった」 そう言って深々と頭をさげた古島に、雅紀は焦りながら駆け寄った。 「や、待って。古島さんは悪くないから。俺が勝手に出て行ったのがいけないんです。自業自得なんです。だからそんな、謝ったりしないでっ」 古島は暁の方にも向き直ると、 「早瀬。この通りだ。本当に済まなかった」 そう言って改めて頭をさげた。雅紀が事務所から姿を消してから、ずっと自分を責めていたのだろう。古島は悲壮な表情をしている。暁は古島の肩にぽんと手を置くと 「古島さん。今回の件はあんたのせいじゃねえ。俺の考えが甘かったんだ。あんたは全然悪くねえよ」 「だが…」 「ほんと、古島さんのせいじゃないんですっ。俺の方こそ心配かけて、迷惑かけてごめんなさいっっ」 そう言ってペコリと頭を下げた雅紀に、古島は少しほっとしたように表情を和ませた。 「君が無事に見つかって良かった……。駐車場に君のスマホが落ちてるのを見つけた時は、目の前が真っ暗になったよ。本当に……よかった…」 「古島さん…」 古島がそっと手を伸ばして、顔をあげた雅紀の頬に触れようとした。雅紀はびくっと首を竦めて後ずさった。暁はさりげなく2人の間に割って入り 「古島さん、その件はもう気に病まないでください。……ところで……社長は?奥ですか?」 古島は伸ばした手を引っ込め、雅紀から暁に視線を移した。 「あ……ああ。奥の社長室だ」 「ちょっと例の件で社長と話しするんで、雅紀を見てやってくれますか?」 暁の目配せに、古島は神妙な顔で頷いて 「分かった。雅紀くん、こっちにおいで。ちょうど君に渡したいものがあったんだ」 古島に手招きされ、雅紀は少し不安そうに暁を見た。暁はにかっと笑って 「すぐ戻るからな」 暁に頭をわしわしされ、雅紀は何か言いたげに口を開きかけたが、すぐに諦めたように口を閉じ、古島の机の方へ向かった。 「今日のじゅーすはどう?美味しい?」 桜さんに顔をのぞきこまれ、雅紀ははっとして奥の部屋から視線を戻す。 「はいっ。すっごく美味しいです」 「そう。よかったわぁ。あ。こっちはね、特製レアチーズケーキよ。食べて食べて」 小皿に出されたケーキを、雅紀はまじまじと見つめた。 「これ……桜さんが作ったんですか?」 「んっふふ。作ったって言ってもレアチーズと生クリーム溶かして、ゼラチンで固めただけ。台生地はマクビティのビスケット使ってるからね。味は保証するわ」 「へえ……凄いな。桜さんって女子力高いんですね」 「あらぁ。なにその見かけによらず的な言い方」 口を尖らせた桜に、雅紀は慌ててぶるんぶるん首をふって 「や、違うしっ。そんなこと言ってないからっ」 「うふふ。冗談よ。んもぉ……雅紀くんってほんと、反応が素直で可愛いわぁ」 「あんまり揶揄わないでやってよ、桜さん。ま。でも素直で可愛いってのは激しく同意だけどね」 赤くなりながら、ケーキをフォークでつついてもぐもぐしている雅紀を、古島は優しい眼差しで見つめた。 「早瀬と社長が何話してるか、気になるんだね」 「あ……えーと。いや、あの……。はい…」 「もう少し待っててごらん。社長か早瀬から、君にもきちんと話があるはずだよ」 「え……。暁さん、話してるのって仕事の話ですよね?」 「うん。仕事の話。でもおそらく君も知りたい内容だと思うよ。早瀬を狙ってる犯人の調査結果だからね」 雅紀はフォークを持ったまま、古島を見つめて固まった。桜が慌てたように割り込んでくる。 「ちょっと古島くん。いいの?そんなこと言っちゃって…」 「僕はね、雅紀くんにもきちんと話をしてあげるべきだと思ってる。社長にはそのことを進言したよ。気を遣われ過ぎて何も教えてもらえないから、雅紀くんは不安になって1人で突っ走ってしまうんだよね。君には情報を共有する権利があるんだよ」 「その通りだな」 奥のドアが開いて、社長と暁が姿を現した。 「古島。おめえの言う通りな、暁には篠宮くんにきちんと話をするように伝えたぜ」 暁は首を竦めて頷いた。 「雅紀、おいで。社長から聞いた話、おまえにもちゃんと説明するからさ」 雅紀は古島と社長を見てから、暁の顔をおずおずと見て 「いいの……?俺が話、聞いても…」 「もちろんだ。確証のないこと言って、おまえを混乱させちまうのが嫌だっただけだ。ほれ、こっち来いよ」 暁に手招きされて、雅紀は立ち上がると、桜と古島にぺこっと頭をさげてから、暁のもとに駆け寄った。

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!