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真実への扉5

「ほれ、着いたぜ」 駐車場に車を停めて、暁は助手席の雅紀の顔を覗き込んだ。 さっき事務所で大泣きしたせいで、まだ目と鼻の頭が真っ赤だ。よほどショックだったのだろう。車の中でも一言も喋らず、放心したようにぼんやりと前を見つめていた。 「雅紀。聞こえてるか~?」 腕を伸ばして、雅紀の握り締めた手に触れると、はっとしてこっちを見た。真っ赤に泣き腫らした目が痛々しい。 「な。今日はさ、やっぱり貴弘の見舞い、止めておこうぜ。おまえ、気持ちの整理にもっと時間が必要だろ?」 暁の問いかけに、雅紀は戸惑いの表情を浮かべた。暁は雅紀の手をぎゅっぎゅっと握って 「そんな顔で会いになんか行ったらさ、見舞いどころか、かえって貴弘を心配させちまうだろ。な?一旦出直そう。今日どうしてもって訳じゃねえんだしさ」 「……俺の顔……そんな……酷い?」 眉をハチの字にして、掠れた小声で聞いてくる雅紀に、暁は苦笑して 「酷くはねえよ。でも、事情全部知ってますって、顔に書いてあるなぁ。おまえにポーカーフェイスが出来るとは思ってねえけどさ。ただ、貴弘はおまえのそんな顔見たら、余計に辛いんじゃないかな」 「そう……ですよね…」 肩を落とし項垂れる雅紀に、暁は小さく溜息をつき 「ショックだった……よな。分かるぜ。俺も社長からの報告見た時は、正直すげー衝撃だった」 「……ほんとに……。……俺、びっくりして。なんだかまだ信じられなくて…」 「俺も秋音も、貴弘が犯人じゃねえかもしれねえって考えた時点で、その周辺の誰かだろうって疑ってはいたんだ。でもな……。まさかこんな事情があったなんてな……」 雅紀は暁の手をぎゅっと握り返しながら 「貴弘さん……桐島さんの子供じゃないかもしれない……。もう本人には伝えたんですよね。きっとすごい……ショックでしたよね…」 暁は重い溜息をついた。 「……だな。あのプライドの高い男が……。しかも犯人はもしかしたら実の母親と、父親かもしれない男だ。……かなりきっついよな……それは」 「暁さん。俺……俺ね、秋音さんを狙ってる犯人が一刻も早く見つかって、命を脅かされる毎日から解放されて欲しいって……ずっとずっとそう願ってた…」 「うん」 「貴弘さんが犯人かもしれないって思ってた時は、すごく辛かった。貴弘さん、ストーカーしてた時は怖かったけど、でも、出会った頃は優しくて大人で、あの頃の俺の、どうしようもない孤独を救ってくれた人で。なんであんなに変わっちゃったんだろうって哀しくて。秋音さんを何度も殺そうとしてたなんて、ほんとは信じたくなくて」 「うん」 「だから、犯人は貴弘さんじゃないかもしれないって……暁さんが言ってくれた時は、正直ほっとした。ものすごく救われた気持ちだった」 「うん。そうだよな」 「それなのに……こんなことって……。犯人が分かって嬉しいはずなのに……。やっと安心出来るはずだったのに……。こんな……こんなのって……あんまりだっ。貴弘さんは……何も悪くないのにっっ」 叫ぶ雅紀の目からぽろぽろと、涙が零れ落ちる。暁は雅紀の頭を抱き寄せ、胸に顔を埋めさせた。 真珠みたいに綺麗な雅紀の涙。 人の為に流す純粋で優しい雅紀の涙。 暁は雅紀の頭を優しく撫でながら、しばらく無言で抱き締めていた。 声を殺し震えながら、雅紀が泣く。今は気が済むまで泣かせてやった方がいいだろう。 田澤からのラインで知らされた情報。さっき事務所で田澤に確認した時点で、それを雅紀に告げるかどうか、暁は正直かなり迷った。 田澤は、ありのままを告げるべきだと言った。どうせいつかは雅紀にも分かってしまうことだ。誰かから突発的に知らされることになるよりは、暁自身がきちんと話しておいた方がいい。古島も同じ意見だった。 雅紀に話すこと自体は、暁も賛成だった。ただ、そのタイミングを図りかねていた。瀧田の一件で雅紀が心に負った傷もまだ癒えていない。度重なる事件で、雅紀の心は疲労困憊だろう。今これ以上の負荷をかけるのは出来れば避けたかった。 迷う暁に、田澤は言った。 雅紀を大切にしたい気持ちは分かるが、過保護になるあまり、情報を遮断してしまうのはダメだと。雅紀には雅紀の考えがあり、感じ方がある。そして何より事実を知りたがっている。保護者ではなく共に歩むパートナーとして、これから先付き合っていくつもりならば、どんな辛い状況も、一緒に受け止めて乗り越えるべきだと。

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