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真実への扉9

「分からないわ……。昨夜、私のスマホに連絡をくれたの。まずいことになったから、私は実家から動くなと。でも何がどうなっているのか分からなくて、お母さん不安だった。だからお父さまの会社に電話をして…」 「お母さんの方からその男に連絡は取れないんですか?」 「もちろん連絡してみたわ。でも繋がらないの。……貴弘……。お母さん、もうどうしていいのか……。お父さまは全てご存知なのね?だったら私、もう桐島家には戻れない…」 ふらふらと立ち上がる母親に、貴弘は焦って手を伸ばした。 「母さん、待って。落ち着いて。気を鎮めて俺の話を聞いて」 「でも……お母さん……罪を犯してる。もうどうすることも出来ないわ…」 「ね。母さん。座って。落ち着いて俺の話を聞いてください。父さんに連絡を取るから、後ろの机から俺のスマホを…」 「ダメよっ。お父さまには連絡しないでっ。だめ……だめだわ。私……私……」 貴弘の伸ばした手を怯えるように見つめながら後ずさり、麗華は着替えを床に落としてドアの方に向かおうとする。貴弘は枕元の呼び出しベルを押しながら叫んだ。 「母さんっ待って!誰か!誰か来てくれ!」 雅紀が洗面所から出てきた。まだ目元や鼻は赤いが、さっきよりだいぶマシな顔をしている。 「暁さん。お待たせしましたっ」 にこっと笑顔を見せる雅紀に、暁も微笑んで、おいでおいでをする。雅紀ははにかみながら、暁の傍に歩み寄った。 「んじゃ、病室行くか?」 「んー。まだ目とか鼻赤いかも。もう少し待合室で…」 「誰か!誰か来てくれ!」 突如、病室から聞こえてきた叫び声に、2人ははっとして顔を見合わせ、声がした方を見た。 一番奥の病室のドアが開き、誰か出てくる。あの部屋は……貴弘の部屋だ。 咄嗟に、暁は病室に向かって走り出した。雅紀も慌ててそれに続く。 ドアから姿を現したのは中年の女性だった。開いたドアから貴弘の必死の声が響く。 「誰か来てくれ!母さんを止めてくれ!頼む!誰か!!」 暁は、覚束無い足取りでこちらに歩いてくる女性の前に立ちはだかった。女性は急に目の前に現れた影に、はっとしたように顔をあげる。 「桐島さん……ですね?息子さんが呼んでます。病室に戻りましょう」 努めて穏やかに声をかける暁に、麗華はみるみる顔を強ばらせた。 「あなた………まさか……まさかそんな……」 怯えた顔で後ずさる麗華に、今度は暁を押しのけるようにして、雅紀が歩み寄った。 「貴弘さんの……お母さんですよね……?貴弘さんが呼んでます。どうかお願い。病室に戻ってください」 そう言ってぺこりと頭をさげる雅紀に、麗華は虚をつかれたように後ずさるのを止めて、雅紀をじっと見つめた。看護師たちが、何事かと駆けつけてくるのを見て、暁はその場をいったん雅紀に任せ、病室の中に飛び込んだ。 「あれは、あんたの母親なんだな?」 ベッドから落ちそうなほど身を乗り出していた貴弘は、部屋に飛び込んできた暁を見て、一瞬顔を強ばらせたが、暁の問いかけに頷いて 「そうだ。俺の母だ。母は今、気が動転している。あのまま行かせてしまったら、何をするか分からない。……こんな……こんなことを……おまえに頼むのは間違っている。分かってるんだ。でも……頼む。母を止めてくれ。ここに連れ戻してくれ。頼む……っ」 無理をして動いたせいだろう。傷口が痛むのか、貴弘の顔は苦痛に歪み真っ青になっていた。それでも歯を食いしばり、必死に起き上がろうともがく貴弘に、暁は駆け寄ると 「無茶すんな。あんたはまだ動いていい状態じゃねえ。大丈夫だ。今、雅紀がおふくろさんを宥めてる。絶対にここに連れ戻すから、あんたはじっとしてろ」 「……っ。雅紀が……?」 「ああ。雅紀がだ。俺だとおふくろさんを怯えさせるだけだからな。あいつに任せたんだ。いいか?じっとしてろよ。看護師たちも来てくれたから大丈夫だ」 貴弘はようやく少し安心したように、もがくのを止めた。 「すまん……。母はおまえを殺そうとした一連の事故に関わっていた。さっきそのことを打ち明けてくれたんだ。人を使って事故を起こさせていた首謀者は、片岡という男だ。母の……愛人だ」 苦しそうに息をしながら話す貴弘に、暁は頷いて 「その話は田澤社長から聞いてる。もうしゃべるなって。顔色が真っ青だぜ、あんた」 暁はそう言うと、ドアから駆け込んできた看護師たちを手招きした。 「こいつを看てやってくれ。息遣いがおかしい」 貴弘を任せて、再び廊下へ向かった。

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