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こころのかけら4
「何やってんの?」
「わっ」
突然上から声が降ってきて、雅紀はびくっと飛び起きた。昔のことを思い出して、すっかり物思いに耽っていたせいで、あきらの足音も襖が開いたのにも気づかなかった。
ふりかえって見上げると、あきらはニヤニヤして、
「なんで机になついてるんだよ?」
「やっあのっ俺」
「遅くなってごめんな。おばさんに取っ捕まって、まさきのことあれこれ聞かれてた。ああ、これ、彼女からな」
あきらが差し出してきたお盆には、ほかほか湯気をたてている筑前煮と、幸せそうな色をした、だし巻き玉子が載っていた。
「うっわ……美味そうっ……」
「美味いぞ~あの人の煮物と玉子焼きは絶品だからな。サービスだってさ」
何故かドヤ顔のあきらは、座卓の上に器を置くと、雅紀のすぐ横に自分の座布団を引き寄せて、ドッカリと腰をおろした。
肩が触れ合いそうな近さから、顔を覗きこまれる。やっと治まってきた顔の火照りが、またぶり返しそうだ。
「……なんで……隣……?」
「まあいいから、食ってみろって。マジで美味いから」
「えっと……いただきます」
雅紀は両手をきちんと合わせてから、まずは筑前煮に箸をのばした。
うっすら綺麗な色のついた蓮根は、見た目よりしっかりと味がしみていて、筍も牛蒡も人参も絶妙な歯ごたえだった。緊張して味なんか分からないかも?なんて思っていたのに、なんだか箸が止まらない。
「美味い……」
「だろ? だし巻きも食べてみな。これ食ったら他の店のなんか食えなくなるぜ」
あきらは満足そうに微笑むと、一緒に持ってきた冷酒を、お猪口形の小さなグラスに注いで飲み始めた。
雅紀は、だし巻きの方もひときれ口に入れてみる。
甘過ぎず、しょっばすぎない、ふっくらとした玉子焼きは、どこか懐かしくて優しい味がする。
「美味しい……」
「な? いいだろ~、おふくろの味って感じで」
「うん、ほんと……なんだか胸がほかほかする」
「初めておばさんのこれ食った時、俺、精神的にどん底でさ」
言いながらひときれつまんで口に入れ
「食べる気分じゃない、いらないって突っ返したら、おばさん言ったんだよ、それなら余計におあがんなさい、人間お腹が空いてるとろくなこと考えないのよ、しっかり食べて、体満足させてあげて、それからゆっくり考えたらいいのよって」
その時のことを思い出しているんだろう。あきらはちょっと遠くを見るような目で薄く微笑んでいて、その横顔に吸い寄せられた目を、雅紀は離せなくなった。
「あんたをここに連れてきたのはさ、おばさんのこれ、食わせたかったからだよ」
「え……」
「なぁ、怒るなよ。コンビニの前で俺の顔見てた時、あんた泣きそうな顔してた。迷子の子供みたいな目して、ひどく辛そうで」
「っ……」
「あんたにそんな顔させてるの、その俺そっくりな昔の知り合いなんだろ?」
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