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つきをみていた6※
失った記憶が全て戻り、都倉秋音という本来の人格を取り戻した以上、早瀬暁という存在は、秋音の過去の記憶の一部になるべきだ。
秋音は、そんな必要はない、このままでいいと思ってくれているのだが、暁自身がそれではダメだと感じている。これから先、2つの人格がひとつの身体を分け合って生きていれば、そのうち必ず歪みがくる。秋音自身も困るだろうし、秋音に関わる人間にも、無用の混乱を与えてしまうだろう。
完全に消えてしまう訳ではない。秋音の一部になって同化するだけだ。
……そう、思ってはいるのだが……。
目の前の、誰よりも愛しい恋人。
雅紀に自分の意思で触れることは、もう叶わなくなる。この優しい笑顔も、守ってやりたくなるような泣き顔も、可愛らしく怒った顔も全て、自分が直接、させてやることは出来なくなる。
「……っ!……あき……ら…さん……?」
不意に、雅紀が喉の詰まったような声をあげた。暁ははっと我に返って雅紀を見下ろす。
「ん?どーした?」
自分を見上げる雅紀の目が、驚いたようにまん丸で、暁は不思議そうに首を傾げた。
「……どうして……?」
「ん?」
「どうして、暁さん……泣いてるの?」
雅紀の言葉で、はっと気づいた。この頬を伝い落ち、雅紀の頬まで濡らしているのは……涙だ。これは、俺の……涙だ。
暁は慌てて手で頬を拭い、苦笑した。
「なんでだ?俺、泣いてんのか。んーどうしてだろな。ははっ。変だよな。涙、止まんねえし」
「………」
雅紀はひどく真剣な顔になり、暁の顔に手を伸ばした。
「傷……痛む……?もしかして、頭痛い?」
「違う違う。痛くねえって。傷はもう大丈夫だ」
「でもっ。だって暁さんがそんな泣くなんて……っ。……あっ……もしかして、秋音さん?秋音さんが泣いてる?」
「それも違う。そういうんじゃねえんだ。心配すんな」
不安そうに瞳を揺らす雅紀に、暁はにかーっと笑ってみせて
「多分さ、感極まったっていうヤツだろーな。気持ちよくって嬉しくて興奮しちまってさ、それが涙腺にきちまっただけだ。おまえだって感じてる時に、勝手に涙出たりするだろー?」
暁の言葉に、雅紀は少しほっとしたように表情をゆるませた。
「そう……なんだ……?俺とおんなじ?」
「そ。泣いてるって自覚なかったから、自分でもちょっとびっくりしたけどな」
照れたように笑う暁に、雅紀はようやく納得したのか、ほわんと微笑みを浮かべた。
「俺も、すっごいびっくりした。暁さん、急にぽろぽろ泣くんだもん」
暁は笑いながら雅紀のほっぺをきゅっと摘んで
「おまえの泣き虫が、うつっちまったのかも」
にやりとする暁に、雅紀は頬を膨らませた。
「や。違うし。病気じゃないんだから、そんなのうつらないしっ」
ぷんすか怒る雅紀に、暁は覆いかぶさってキスを仕掛けた。その動きで繋がったままの奥を突かれて、雅紀はくぐもった喘ぎを漏らす。暁は口づけながらゆっくりと腰の動きを再開した。
……不覚だった。おっとりしているようで、こちらの心の動きにひどく敏感な優しい恋人を、これ以上不安にさせてはいけない。
いつか来るその時。でもそれは今じゃない。一連の事件が決着し、雅紀の心が落ち着きを取り戻すまでは、余計な負担はかけない。秋音とはそう約束をしている。
暁は内心の動揺を押し隠し、雅紀の身体を愛撫することに集中した。
ソファーの上でひとしきり愛し合った後、布団に場所を移して、また抱き合った。雅紀の身体は柔らかく暁を受け入れて、独特の甘い香りを放ちながら、優しく包んでくれる。
向かい合って愛し合う体位は、お互いの表情が確認出来て好きだ。でも、上からのしかかるとガタイのいい自分に潰されて、雅紀の表情が苦しそうなのが気になって、暁は雅紀を対面で抱っこして、細い腰を掴んで下から突き上げた。
「……あっん…ぅんっあ……ぁう…ぁぁん」
雅紀は自らも腰を揺らめかせながら、甘く掠れた声を撒き散らす。白い肌が全身うっすらと桜色に染まり、悦びにくねる姿は、おそろしく官能的で美しい。
「…っいい、か?……これ、気持ちいいか?」
「んっあ……っああん……ぁあっぃっいいっあっあっあぁ…っ」
「…っくっ。おれ、もっいいぜ……っすっげ気持ちいっ」
熱くて甘くて、身体も心もどろどろに溶けてしまいそうだ。
……ああ……いっそ溶けてしまえたらいい。溶けて混じりあって、ひとつになってしまえたら……。
「……まさきっ。イくぞっ」
「…っんあん……ぁきっらさ、きて…っ」
暁は雅紀の腰を掴んで下から突き上げ、込み上げる歓びを、一気に雅紀の奥に解き放った。
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