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つきのかけら4

「なあ……雅紀……」 「ん?なーに?」 ……秋音と俺、おまえはどっちを選ぶ? これまで何度も確認しようとして、ずっと言い出せずにいる言葉。 聞けば雅紀は笑って「だって2人は同じ人でしょ?」……そう答えるに決まっている。 それはそうなのだ。同じ身体に宿る2つの人格。性格や好み、喋り方は違っても、根本的には同じ1人の人間なのだから……。 ……なんつーか……。ややこしいことになっちまったよなぁ……。 過去の記憶を共有出来ずにいた頃ならいざ知らず、今は秋音も俺も同じ記憶を持っている。どちらが表に出ていても、特に支障はない。 けれど、やっぱり自分と秋音は、それぞれ別の意識を持つ人間だ。今は交代で表に出ていても問題は感じないが、この先、5年、10年と時を重ねていくうちに、2つの人格の違いはますます広がって、相容れないものになっていく可能性だってある。 この身体は、もともと秋音のものだ。自分の存在は異端で、本来ならば存在してはいけなかった。もしどちらかが消えなければいけないとしたら、それはやっぱり……自分の方だろう。 「暁さん」 不意に手が伸びてきて、頬に触れた。雅紀がしょげた顔で覗き込んでくる。 「悩み事……?暁さん……なんか困った顔してる」 「んー……いや。んなことねえよ」 「言って?困ったこと、あるんなら、俺に話して?」 暁は苦笑して、頬を包むようにしてくる雅紀の手に自分の手を重ね 「んな心配そうな顔すんなって。大丈夫だ」 「……俺じゃ、頼りになんない?」 「ばーか。んな訳ねえだろ。そうじゃなくてさ、今日のピクニック、どこ行くかなーって考えてただけだ。おまえ、どっか行きたいとこあるか?」 「行きたいとこ……?うーん……」 雅紀は眉を寄せて首を傾げ 「俺、地元の割に、案外どこも行ってないから……遊ぶ場所ってよく知らないんです。でも折角カメラ持ってきたし、お弁当も作ったから……」 「だよな~。のんびり外で飯が食えて、写真撮って歩けるとこがいいよな」 暁はうーんと唸って 「ちょうど新緑が綺麗だから、最初に行ったあの自然公園もいいんだけどさ。こっからだとちょっと遠いんだよなぁ。折角こっちの方来たんだし……あの場所……行ってみるかな…」 雅紀はにこっと笑って 「俺、暁さんのお薦めならどこでも行ってみたい。連れてってください」 「OK。んじゃ、出発するぜ」 「はいっ」 いそいそとシートベルトに手を伸ばす雅紀に、暁は内心ほっとして、車のエンジンをかけた。 車で30分ほど行った田舎町の外れに、突如、大きなアーチ型のゲートが出現した。雅紀はうわ…っと小さく呟いて、口をぽかんと開けている。 「おまえってさ、どこ連れていってもいい反応するよなぁ」 暁はくく…っと笑いながら、入場料を払う為に、ポケットから財布を取り出した。 「あっ。俺が払います。いくら?」 雅紀は慌てて自分のポケットに手を伸ばす。 「いいよ、ここは俺が出す。おまえは中でスイーツ食う時に出してくれりゃいいって」 雅紀は物珍しそうにゲートの奥に広がる光景を見回して 「スイーツの店とか、あるんだ」 「んー。飯食う店もいろいろあるぜ。ここはソーセージと焼きたてパンが旨いんだよ」 料金を払ってゲートをくぐると、ゆっくりと車を走らせる。雅紀は身を乗り出して窓の外を見つめて 「わ。すごいっ。……あれって……花?綺麗……。空色の絨毯みたいだ……」 「ああ、あれな。ネモフィラって花だ。ああやって群生させるとめっちゃ綺麗だよな。他にも薔薇園とかひなげしの丘があってさ。パターゴルフやちょっとした遊園地と動物園もある。1日中遊べるぜ」 「ふうん……。あ。ここって、道の脇全部が駐車場なんだ」 「そ。園内がとにかくすっげー広いの。徒歩だと回りきれねえからさ、車で目的地まで行って、そのまんま脇に停めるんだよ」 雅紀は感心したように頷いて、窓の外にかじりついている。 泣き疲れてぐったりしていたのが、少し元気になってきた。表情も明るくなってきて、ほっとする。折角の2連休だ。今日はのんびりと自然に触れ合いながら、楽しく過ごさせてやりたい。 「よし。そろそろ昼時だし、まずはのんびり弁当広げて腹ごしらえだな」 園内で一番広い芝生広場の、脇の駐車スペースに車を停めると、暁は車を降りて、後ろの座席に置いていたピクニック用の荷物を取り出した。

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