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つきのかけら5
荷物を分担して持ち、並んで芝生の丘に向かう。なだらかな芝生の斜面の中腹に、途中のコンビニで調達したビニールシートを広げ、四隅にカメラバッグや荷物を置くと
「雅紀、靴脱いでこっちに座れよ」
弁当の入った荷物を抱えて、きょろきょろと辺りを見回していた雅紀は、暁に手招きされて嬉しそうな顔になり
「わ。なんか遠足みたいだ。こういうの、学生の時以来かもっ」
靴を脱いで敷物の上にあがると、暁の隣にちょこんと座り込んで、はしゃいだ声をあげた。頬をうっすら紅潮させ、きらきらと目を輝かせている。
……おーお。可愛い顔しちゃって。野郎2人でピクニックってどうよ?な~んて思ってたけど、こんだけ素直に喜んでくれると、連れてきた甲斐があるってもんだよな。
基本、雅紀が可愛くて仕方が無い暁は、素直過ぎる雅紀のはしゃぎっぷりに、頬がにやけるのを止められない。
よく晴れて風も穏やかな絶好のピクニック日和だが、なにしろ平日の昼下がり。園内には小さな子供を連れた若い夫婦や、年配の夫婦などがちらほらいるぐらいで、アラサーの男2人のカップルなんて、もちろん他にはいない。
……めっちゃ目立ってるよなあ。俺達。ま、雅紀が意外とその点気づいてねえみたいだから、いいか。
街中では、かなり人の目気にしいの雅紀だが、初めて来た田舎のテーマパークが物珍しいのか、いつもの警戒心が緩んでいるようだ。
……昼飯食ったら、雅紀の膝枕で昼寝ってのもいいよなあ……。
思わずその光景を妄想してにやにやしていると、不意に雅紀の指が伸びてきて、頬をつままれた。
「…っいってぇ。おまっ、いきなり何すんだよ」
むっとした雅紀の顔が目の前にある。暁が頬をさすりながら抗議すると
「だって暁さん、今なんか変なこと、考えてたでしょ……」
「おまえはエスパーかよっ。俺の妄想がどうして分かるんだよ」
「やっぱ……妄想とかしてたんだ……。すっごいにやけてたし」
不審の眼差しでちろっと睨まれ、暁はむすっと膨れてみせ
「妄想っつうか……おまえの膝枕で昼寝とか、気持ちいいだろうな~って思っただけだぜ」
「や。しないから。ここ、外です」
「えー。人目なんかほとんどねえじゃん。膝枕ぐらいいいだろ~。男のロマンってやつだぜ」
「うわ。また出た……男のロマン。……おやじくさ…」
「くっそー。おまえ可愛くないぞっ」
飛びかかってきて髪の毛をもしゃもしゃしようとする暁をひょいと避けて、雅紀はトートバッグからお弁当箱を取り出し始めた。
料理はするが、男1人住まいの暁のアパートに、ピクニック用の可愛い弁当箱などはない。100均で買った大小様々なタッパーが次々登場する。雅紀に軽くかわされ、暁はじゃれつくのを諦めて、タッパーを敷物の上に並べ始めた。
「次に弁当作ってくる時はさ、もうちっと小洒落た入れ物がいいよな。明日駅前のロフト辺りでさ、良さげなやつ探してみるか」
「ふふ。たしかにこれじゃちょっと味気ないかも」
そう言いつつも雅紀は楽しげに、タッパーの蓋を開けていく。暁が腕によりをかけて作ったおかずは、どれも彩り鮮やかで美味しそうだ。
「暁さんってほんと器用だなぁ。このタコさんウィンナーとか、めっちゃ可愛いし」
「おう。気に入ったか?なんなら毎朝キャラ弁作ってやるぜ。猫とかクマとかウサギとか、超絶可愛いやつな」
雅紀は嫌そうに顔をしかめて
「それはマジ無理。遠慮します。そんなのあの事務所に持っていったら、桜さんたちに絶対笑われるから」
「そっか~?でもおまえ似合いそうだぜ。そーゆーの食ってても違和感ない感じ」
「んもぉ。暁さんの中で俺、どんなイメージですか」
雅紀は頬をふくらませ、タッパーからおにぎりを取り出すと
「はい、これ暁さんの。俺が握ったからいまいちいびつだけど……」
恥ずかしそうに笑って、おにぎりを差し出す雅紀に、暁の顔は緩みっぱなしだ。
「え~。あーんとかしてくれねえの」
「しないしない。もーいいから黙って受け取るっ」
「ちぇっ」
雅紀の顔は真っ赤だ。暁はじりじりとにじり寄ると、おにぎりを受け取り、ひとくち頬張った。
「んー上手いぜ。塩加減が絶妙」
若干ゆるめのおにぎりは海苔と一緒にほどけてくるが、暁は構わず豪快に頬張り、指についたご飯粒を舐め取っている。雅紀はぽやんと暁に見とれていたが、目が合うと何故か更に赤くなり
「あっ……えと……おっ……美味しい……?」
「何焦ってんだよ。美味いぜ。おまえも食えって」
……もう…暁さん、近いってば。
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