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つきのかけら6
さり気なく肩をくっつけて座り、すぐ横でおにぎりに豪快にかぶりつく暁の、切れ長の凛々しい顔も、指を舐める男っぽい仕草も、ドキドキするくらい格好いい。雅紀は火照る顔を手で押さえ、暁に差し出されたおにぎりを受け取って、はむっとかぶりついた。
初夏特有の柔らかくて暖かい陽射しが降り注ぐ、広々とした芝生の丘。視界を遮るビルはなく、青い空には絵に描いたような雲が浮かんでる。
聞こえてくるのは鳥のさえずりだけ。
ここには、のどかで優しい時間が流れている。
……こういうの、至福っていうんだな。ほんと俺、今すっごい幸せだ。隣に大好きな人がいて、何にもしなくても心が満たされてて。こんな時間が持てるなんて……思ってなかった……。
一緒に暮らそう、共に人生を歩もう、と言ってくれた。だからこんな日々は、これから先ずっと続くのだ。限られた一瞬の喜びではない。ずっとずっと。この先もずっと……。
雅紀は気づかれないように、そっと隣の暁を見た。
格好よくて優しくて頼もしい恋人。
この人とこんな風に日々を過ごし、穏やかに年を重ねていける未来。
ようやく見えてきた幸せな未来。
……どうしよう。俺、幸せ過ぎて怖い。本当にいいのかな。俺、この人と一緒に生きてもいいのかな。
何故か急に不安になってきて、雅紀は慌てて暁から目を逸らし、おにぎりにまたかぶりついた。
……ダメだな。俺。悲観主義過ぎるだろ。折角の楽しい気分、台無しにしちゃうよ。
欲しいものに手を伸ばしても、届かないのが常だったから、ようやく手にした幸せを失うのが怖い。
楽しい未来だけ夢見てればいいのに、余計な不安にかられてしまう。
「どうだ?美味いか?」
不意に話しかけられて、雅紀はびくっと飛び上がった。自分の反応に自分で驚いて、慌てて暁の顔を見る。暁はちょっと驚いたように目を見張り、すぐに心配そうに表情を曇らせた。
「どした?気分、悪いか?」
雅紀は慌てて首をぶるぶる振って
「ちがっ違うっ。俺、き……緊張して」
「へ?緊張?」
「だって、暁さん格好いいからっ。俺、なんか心臓ドキドキしちゃって」
思わず叫んだ雅紀の言葉に、暁は呆気に取られたような顔になり
「おまえ~天然だろ。いきなり何言っちゃってんだよ~」
照れたように笑って、雅紀の頭をがしがし撫でる。雅紀も自分の口から飛び出た言葉に自分で焦って
「や。俺、バカかも。今の忘れてっ」
暁の手を押し戻し、
「お弁当っ早く食べましょうっ。俺、パターゴルフとかやってみたいし、動物園も見てみたいからっ」
そう言って、箸を掴んでおかずに手を伸ばし、がつがつと食べ始めた。
「こら。時間はたっぷりあるからな。ゆっくり食え。喉詰まらすなよ」
照れ隠しに必死で唐揚げをもぐもぐしている雅紀に、暁は笑いながらそう言って、自分もおかずに手を伸ばした。
ゆっくりとピクニック弁当を堪能して、次の目的地に向かった。
暁ご所望のお口あーんは、断固として拒絶した雅紀だが、その後の膝枕は拝み倒され渋々承知した。周りの視線がちょっと痛い気もしたが、満足そうで幸せそうな暁の顔が可愛かったから、周囲の視線には目を瞑ることにした。
「で、お次はどこがいい?」
膝枕している間、園内マップを熟読していた雅紀は、暁の問いかけにすかさず
「パターゴルフっ。俺、やったことないから、やってみたいんです」
「OK。んじゃそっち先に行くぜ」
雅紀は園内マップを握り締め嬉しそうに頷く。車を発進させながら
「じゃあさ、おまえ、ゴルフクラブも触ったことねえの?」
「え…えと。あー……子供の頃、父さんの……いじってみたことは…あるけど」
雅紀は膝の上で、マップをにぎにぎしている。
「ふうん……。ちなみにおまえ、学生時代、部活って何やってた?」
そういえば、大学時代の秋音の記憶を思い起こしてみても、雅紀と部活やスポーツの話をした覚えがない。暁の質問に雅紀はもじもじして
「……えと……。暁さん、笑わない……?」
「ん?笑わねえよ。つーか、んな変わった部活なのかよ?」
「……演劇部……です」
蚊の鳴くような答えに、暁は思わず雅紀の方を見て
「は?演劇!?おまえが?」
暁の素っ頓狂な声に、雅紀はきゅっと首を竦めた。
「……ぅ……やっぱり……変?」
「いやっ……いやいやいや。変じゃねえけど……。でも超意外っつうか……」
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