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つきのかけら7
「俺……人前で喋るの、苦手で。すっごい緊張しいで口下手だったから……。少しはそういうの治るかなーって。あ、でも最初は演劇部なんか入るつもりなかったんです。でも、友達に無理矢理、部室に連れてかれて……そしたら女子の先輩達に囲まれて……こっ怖くて、断れなくなっちゃって……」
……あ~…なるほどな……。なんとなーくその光景、目に浮かぶわ。
「んじゃ、スポーツは全然やってなかったんだ?」
雅紀はちろっと暁を見て
「中学の時は、サッカーやってました。あと、小学生の頃は父さんに連れてかれて、近所の空手道場に通ってて……」
「おっ。空手かよ。それもまた意外だな」
「や……それは1年経たないで、結局やめちゃったんだけど……」
雅紀はしょぼんと肩を落とし、また蚊の鳴くような声になった。
父親に連れていかれて、本人は望まなかった習い事。しかも雅紀の穏やかな性格なら、空手は続かなくても無理はないだろう。そんなにしょげることではない。
暁は雅紀の頭を優しく撫でて
「ほれ、ついたぞ。ちなみに俺もゴルフはそんな上手くねえぜ。仙台で仕事してた時に、客との付き合いでやってた程度だ。ま、クラブの握り方くらいは教えてやれるけどな」
身体を縮こまらせていた雅紀は、暁の言葉にぱっと顔をあげ、窓の外を見た。
「わぁ……。結構広いんだ」
「池とかあって割と本格的だろ?さ、行ってみようぜ」
「はいっ」
しょんぼりしていた雅紀の顔に笑顔が戻る。車を降りると、うきうきした様子で、暁より先に受付の窓口に向かって歩き出した。
……空手ねぇ…。おやじさんとしては、一人息子に男らしくなって欲しいってな感じだったんだろうがな。親の望むようには子供は育たねえよ。人にはそれぞれ向き不向きってのもある。
父親との関係はもう諦めていると、雅紀は哀しそうに言っていた。性的指向ってのは努力して変えられるものじゃない。一人息子がゲイだった親の気持ちも分からなくないが、親に自分を否定されて育てば、子供は萎縮して、期待に応えられない自分を責めながら生きることになる。
……こっちの件がおさまりついたら、1度ご両親に会って話をしてみるか……。こいつの話を聞く限りじゃ、理解してもらえる可能性は低いけどな……。
ほとんど交流はないとしても、雅紀は篠宮家の一人息子だ。これから先、共に人生を歩むのであれば、親との話し合いは避けては通れないだろう。
……これから先……か…。
雅紀との未来を想う時、暁の心も揺れ惑う。こいつとこのまま、ことことと穏やかに月日を重ねていけたら……。
長い一生の間には、いい事も悪い事もあるだろう。でも、互いに同じ方向を向いて支え合って生きていく。この優しくて可愛い恋人と一緒に。
それはきっと温かくて充実した毎日になるだろう。自分にそれが許されるのであれば……。
「暁さんっ。早く早くっ」
受付の所で雅紀が振り返る。早くやってみたくてうずうずしているのだろう。こういう時の雅紀の笑顔はきらきらと眩しくて、見ているこちらも思わず気持ちが浮き立つ。
暁は手をあげて優しく笑い返し、雅紀の側に急いで歩み寄った。
道具一式を借りて、コースに出る。雅紀はルールを説明する暁の言葉に熱心に聞き入ってから、手渡されたクラブを恐る恐る握った。
「んー。そうそう。左手がこうで右がこうな。握り方にはいろいろあるらしいけど、とりあえずそれが基本な。慣れてきたら自分のやりやすい形にしてけばいいぜ」
暁は手本を見せながら雅紀にクラブを握らせると、後ろから両手を添えて
「パターはボールを飛ばすんじゃなくて滑らせるんだ。こういう風に持って振り子みたいな感じでさ。この部分をボールの真ん中に綺麗に当ててやんのな。変に力入っちまうと、あさっての方向に飛んでいっちまうぜ」
「んーと……こ、こう……?」
自信なさげに眉を寄せながら、雅紀は真剣そのものの眼差しでボールを見つめ、暁に手を取ってもらいながら、ボールを打ってみた。カツンっといい音がして、ボールがころころと芝の上を滑っていく。
「お。いいじゃん。綺麗に真っ直ぐ打ててるぜ」
雅紀はボールを目で追い、嬉しそうに頬をゆるませた。
「わ……ちゃんと打てた。すごい……なんかめっちゃ楽しいかも」
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