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つきのかけら8

はしゃぐ雅紀の表情が可愛い。カメラを教えていた時もそうだが、雅紀の素直な反応が楽しくて、自分に出来ることは何でも教えてやりたくなる。 「打数の少なさを競うゲームだからさ。ゴール位置見ながら打つコースと強さを計算するんだ。ボールにヘッドを当てる時は、変にスピンがかかっちまわねえように、いいとこを狙えよ」 「はいっ」 練習は終了。いよいよゲームスタートだ。生真面目な雅紀は表情を引き締めて、スタート位置につく。普段ほわんとした雰囲気が急にきりりと引き締まり、近寄り難い硬質な印象になる。 第1打。……豪快に空ぶった。見守る暁は思わずズッコケる。 雅紀は打ったはずの方向にボールがないのに気づいて、きょろきょろと見回し、足元に微動だにせず佇んでいるボールを見て、暁の方を振り返る。 恨めしそうな目。 ……いや。そんな目で俺を見られても困るんだが…。 「ドンマイなー。これからこれから」 暁が笑いながらそう言うと、雅紀はむーっと口元を膨らませ、また真剣な表情に戻ってクラブを構え直した。 最初こそズッコケたが、雅紀はその後、順調にパットを続けた。超初心者というだけで、もともと運動神経が悪い訳でも感覚が鈍い訳でもない。…スコアについては、この際横に置いておこう。楽しく遊べれば充分なのだ。 思ったように打てれば幸せそうに笑い、上手くいかないと悔しがってしょげる。そのころころ変わる表情が何より愛しい。楽しそうな雅紀を見ているだけで、暁の心は和んだ。 「おまえ、なかなか上達早いじゃん」 9ホール目まで来て、暁が感心したように褒めると、雅紀は蕩けるような笑顔になって 「ふふ。すっごく楽しい。俺、ゴルフって好きかも」 「んじゃ、今度打ちっぱなし行ってみるか?パターも楽しいけどさ、フルスイングとかやれたらスカッとするぜ」 「わぁ。行ってみたい…」 「OK。連れてってやるよ。他にもやってみたいことあったらさ、遠慮なく言ってみな。仕事が休みの日は、おまえのリクエスト、1個ずつ叶えてやるぜ」 「なんかそれって贅沢過ぎる…。暁さんと一緒なら、どこに行っても、何をしても、俺すっごく楽しいから」 はにかみながらそう言う雅紀に、暁は内心どきっとした。 ……俺と一緒なら……。 「…ばーか。贅沢過ぎねえだろ。そんくらいでさ。……よし。次はどこ回る?動物園の方か?」 「うんっ」 嬉しそうに頷く雅紀の顔が眩しくて、暁は慌てて目を逸らし、借りた道具をまとめ始めた。 ミニ動物園で馬や小動物たちと触れ合い、隣接する芝ソリゲレンデで大はしゃぎした後、一旦車で移動して、園の中央にある休憩スペースに行った。建物の中には飲食店や土産物屋などが並んでいて、店で買ったものを飲食出来る芝生の庭がある。 「何か食うか?」 暁にくっついて歩き、ソーセージや焼きたてパンを見て歩いていた雅紀は、うーん…と首を傾げ、 「お腹はまだ空いてないかも。あ。でも、ソフトクリーム……食べたい」 雅紀がおずおずと指さすソフトクリームやクレープの屋台を見て、暁は 「OK。買ってきてやるよ。そこのベンチに座ってな」 「ううん。ここは俺が出すから、暁さんこそ座ってて」 雅紀は暁の腕を掴んでベンチに引っ張っていくと 「暁さんも食べる?」 「んー。じゃあミックスな」 「うんっ」 暁をベンチに座らせると、雅紀は屋台に行って、やがて2人分のソフトクリームを手に戻ってきた。 頬をうっすら上気させ、両手にソフトクリームを持った子供みたいな笑顔の雅紀に、隣のベンチの若い夫婦がちょっと見とれているのに気づく。 ……やっぱ目立つよなぁ、あいつ。 なにしろ街中の雑踏にいても、男女問わず通りすがりの人間が、思わず2度見する位の美人さんなのだ。まあ、本人はまったくの無自覚で、天使のような無邪気な笑顔だが。 「暁さんっ」 得意そうにソフトクリームを持つ両手を掲げて、歩み寄ってくる雅紀に、更に周りの視線が集まる。暁は内心苦笑しながら 「さんきゅー」 差し出されたソフトクリームを受け取って、隣に座れと促す。雅紀はすとんと腰を降ろすと、幸せそうな顔でソフトクリームを舐め始めた。 「楽しいか?」 雅紀はこくこく頷き 「すっごーーーーく楽しい。暁さん、ありがとう」 「どういたしまして。ここは前に事務所の連中に連れてこられたんだ。クリスマスのイルミネーション見にな。あん時は夜だったから、アトラクションはまったくのスルーでさ」 「そうなんだ」 「やっぱ恋人とデートでってのは格別だよな」 「……デート……?」

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