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つきのかけら9

ソフトクリームを舐める雅紀の顔が、何故かピキっと固まった。 「や。なんでそこで疑問形だよ?デートだろ、これ」 「うわぁ………」 雅紀の顔がじわじわと赤くなっていく。舌をちろっと出したまま、そろそろと顔を向け、暁の顔をじーっと見つめてから 「デート……。うん。そっか……。これってデートなんですよね……」 ……おいこら。うわぁ…はこっちのセリフだっつーの。何その可愛い顔っ 思わずがばっと襲いかかりそうになる衝動を、暁は懸命に自制した。 「…っデートだろ。正真正銘の」 しまった。声が上擦っちまった。雅紀はどうやら俺を、キュン死させるつもりらしい。 「ふふ。そっか……デートだ……」 雅紀はそろそろと顔を戻し、目元を赤く染めたまま、ソフトクリームを舐め始めた。雅紀の照れが伝染したのか、暁もなんだか妙に顔が火照ってきて、それを誤魔化すように豪快に口を開け、ソフトクリームにかぶりついた。 ……ダメだろ。どこの中学生の初デートだっつの。野郎2人で顔赤くしてソフトクリーム舐めててどーするよ? ソフトクリームはミルクが濃厚で美味しかった……と思う。味なんか分からないまま、一気に食べきってしまったが。 「ちょっと煙草、吸ってくるな」 そう言って立ち上がろうとすると、袖を掴まれた。不安そうに自分を見上げる雅紀の顔。 「俺も……行く」 「おう。おまえも吸うか?」 「……うん」 連れだって建物の裏手にある喫煙スペースに向かった。古ぼけたベンチに並んで腰掛け、暁はポケットから煙草を取り出すと1本咥えてライターで火をつける。その1本を吸い終わる頃に、ようやく雅紀はソフトクリームを食べ終えた。 暁は吸殻を灰皿に投げ入れ、煙草を差し出した。 「ほれ」 雅紀はそれをじっと見つめてから顔をあげ、衝立で仕切られた喫煙スペースを見回し、すいっと顔を近づけてくると、暁の唇にそっとキスをした。 不意をつかれ、驚いて目を見張る暁を、いったん顔を離して上目遣いに見つめる雅紀の目が、少し潤んで揺らめいている。 暁は雅紀の身体を両手で抱き寄せ、誘うようなその唇にキスを落とした。 煙草の匂いのする、ちょっと苦くて、でも甘い甘い口付け。 触れるだけのキスはすぐに甘さを増し、互いの唇がほどけて舌が触れ合い絡み合う。ソフトクリームのせいで冷たくなっていた雅紀の舌は、暁の熱が伝染したように熱くなっていった。 「……ん……ふぅ……んぅ……ん…」 鼻から漏れる雅紀の微かな声。熱いのは口だけじゃない。身体全体が熱を持ってくる。 暁は仕上げにちゅっと舌を強く吸って、必死に唇を離した。これ以上はまずい。止められなくなる。こんな所でサカってたら、洒落になんねえ。 とろんと蕩けた雅紀の瞳と目が合った。暁は苦笑して 「おまえ、今日はちょっと大胆過ぎ。こんなとこで誘うなよ。ヤバイって」 雅紀は恥ずかしそうに目を逸らし 「ここ、連れてきてもらった感謝のキス。俺……こんな楽しいデートって初めてかも」 嬉しいセリフだが、これぐらいでそこまで喜ぶ雅紀の過去がちょっと切ない。暁は微笑みながら雅紀の頭をくしゃっと撫でて 「そっか……。んじゃ、次はどこ行く?せっかくカメラ持ってきたんだ。ひなげしの丘に行ってみるか?」 「ひなげし…」 「ここのひなげしは、花色が全部赤なんだ。群生してると怖いくらい綺麗だぜ」 雅紀はカメラバッグをちらっと見てから顔をあげ、目をきらきらさせて 「見てみたいっ。写真も撮りたい」 「OK。んじゃ行こうぜ」 「うわぁ……すごい。なんか幻想的…」 「だろ?おまえに見せたかったんだ。なんつーか現実離れした雰囲気だろ」 「うん。昔見た映画のワンシーンみたい。綺麗だけど、ちょっと怖い感じ」 風に揺れる丘一面の赤いひなげし。柔らかく揺らめいて、誘われてる気分になる。 「真っ赤だもんな。花自体は優しげで儚い印象なのにさ、見てるとぶわーっと吸い込まれていきそうだろ?」 雅紀はぽわんと見とれながら、花の群生に近づいていき、うっとりと斜面を見上げた。 その表情が恐ろしく綺麗で、暁はドキッとして、慌てて首からさげたカメラを構えた。ファインダー越しに雅紀の横顔を捉え、花に見とれる自然な表情をカメラにおさめる。 ……怖いくらい綺麗なのは、花よりも雅紀の方か。あいつ、時々クラっとくるような色っぽい表情になるよな……。 雅紀の顔が赤い花びらと重なり合うアングルを探し、単焦点レンズで絞りを開放にしてシャッターをきる。

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