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願いのかけら2
何を要求されるかと、ちょっとびくびくしていたあきらに、雅紀が最初に言ったお願いは……
「俺、腹減ってるんで、さっき頼んだ砂肝と軟骨、ちゃんともらってきてください。変な話抜きで、美味い焼き鳥とお酒を、もっとじっくり楽しみましょう」
だった……。
もちろん異論なんかない。焼き鳥だけじゃなく、汁ものとご飯ものも追加して、やっぱりここは俺の奢りだと言うと、
「それだと次に来た時に、あきらさんと気兼ねなく食事できないから、ちゃんと折半にしましょう」
そう、呆気なく却下された。
たらふく食って、酒も飲みすぎない程度に堪能し、旅先で会った変な人なんていう、俺のどうでもいい話で意外と盛り上がり、お互いにカメラが趣味だってことが分かって、更に盛り上がり。
楽しいまま夜も更けて、そろそろお開きかという頃合いで、ほろ酔い加減の雅紀から出た、2つ目のお願いは……
「俺、気軽に飲める友達少ないから、ライン友だちになってくれますか」
だった……。
別れ際に電話番号とメアドを聞くつもりだったから、これももちろん異論はない。すぐにお互いのラインに、友だちとして追加しあった。
おじさんとおばさんに礼を言って(……特におばさんの煮物とだし巻きは、毎日でも食べたいと、雅紀がおばさんを盛大に喜ばせていた……)
約束通りキッチリ折半で会計も済ませ、終電に乗り遅れそうだと焦るまさきに
「明日は仕事休みだって言ってたよな? 狭くて汚いとこだけど、それでもいいなら、俺のアパートに泊まっていくか?」
そう誘ってみると、雅紀は何故か数秒固まってから、耳まで真っ赤になり
「え……でも迷惑でしょ? あきらさん、明日の予定って……」
「夜に仕事関係で人と会う予定だけど、それまではフリー。せっかくだからカメラ持ってちょっと出掛けようぜ。連れていきたいとこ、あるんだよ。そろそろいい時期だしさ」
途端に雅紀は目をキラキラさせて
「うわ……それ、ものすごく魅力的なお誘いだけど……。俺、今日はカメラ持ってきてないしなぁ……」
「俺の貸すよ。同じ機種、予備で3台持ってるし。あ、あのメーカーのが嫌じゃなければ、だけどな」
「嫌じゃない。使ってみたかったし」
「んじゃ、決まり。そうだ、コンビニ寄ってくか。服は俺のを貸せるけど、下着は新しい方がいいよな。あと歯ブラシか。それと朝飯も」
あきらはなんだかご機嫌な様子で、最初に出会ったコンビニに入っていく。
後に続こうとして、雅紀は入り口近くの喫煙スペースをちらっと見て、足を止めた。
……不思議だ。ほんの数時間前に、ここで会ったばかりなんだよなぁ。なのにお泊まりとか。なんかびっくり。
いや、その気があって、ホテル行くとかなら、ないわけじゃないけど…。アパートって。
あきらさん、警戒心無さすぎだろ。素性も知れない男、部屋にあげて、もし俺が悪いやつだったらどうすんだよ?
いや……警戒心ないのは俺の方かも。
「ここにいたのかよ」
見ると、あきらは店の入り口からひょいっと顔を出し
「すぐ後ろついてきてると思って、俺1人でしゃべってたろ~格好わるっ」
くいっくいっと店内を指差され、雅紀は笑いをこらえながら、あきらの後に続いた。
下着と靴下、それに歯ブラシ。あきらは慣れた感じでひょいひょいとカゴに放り込んでいく。
「部屋で飲み直すなら、なんかつまみ買ってくか?」
「いや。酒はもう十分です。腹いっぱいだし」
「んーOK。俺も今日はもういいや。んじゃ朝飯は? まさきはパン党?ご飯党?」
「俺、朝はあんま食べられないんで、パン……かなぁ」
てっきり菓子パンかサンドイッチでも選ぶのかと思ったら、あきらが選んだのは長細いフランスパンで…
「なんで……フランスパン?」
キョトンとしてる雅紀に、あきらはなんだか悪い顔をして笑うと
「それは明日のお楽しみってヤツだ」
「はぁ……」
「あ。そうだ。まさき、デザート食う?」
雅紀の返事もきかないうちに、冷蔵デザートのコーナーに行って、ひょいっとプリンを手に取りカゴに入れてから、急に難しい顔をして
「んー。どっちかなー」
杏仁豆腐を手に取り、カゴの中のプリンと見比べている。雅紀がカゴを覗き込むと
「まさきはどっちがいいよ?」
「俺? 俺はどっちでも。ってか、なんでこの2択? シュークリームとかエクレアとか」
「却下。俺はプリンか杏仁豆腐が食いたい」
「うわぁ……俺様だろ、あきらさん」
「よし。とりあえず2つとも買っていくか。どっちがいいかは、まさきに選ばせてやるよ」
そう言ってニヤリと笑い、杏仁豆腐の他に無糖のヨーグルトもカゴに放り込み、さっさとレジに向かう。
自分が使うものなんだから、ここの会計は俺が払うと言い張る雅紀に、誘ったのは自分だから自分が払うとあきらは頑として譲らず、店員の「どっちでもいいから早く会計しろよ」というオーラに負けて、結局あきらに支払いを任せた。
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