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つきのかけら11
花の撮影を楽しんだ後は、焼きたてパンとソーセージをお土産に買って、スイーツと美味しい珈琲が楽しめる喫茶室に行った。
「かなり歩き回ったからな。昼飯分はもう完全に消化したろ?」
雅紀は興味津々にメニューを覗き込んで
「うん。結構お腹すいたかも」
「んじゃ、ここのイチ押し教えてやるよ」
暁は身を乗り出して、雅紀の持ってるメニューをパラパラめくっていき
「じゃ~ん。これだ」
暁の指さす場所に載っているのは…
「え。パングラタン???」
暁は何故かどや顔で
「そ。俺のイチ押し」
「でもこれ、スイーツじゃないし」
「んー。甘いのが良けりゃ、その下の特製フレンチトーストな」
暁のお勧めメニューの写真を見て、雅紀は目を丸くして仰け反り
「うっわ。すっごいボリュームっ。これ、どっちもパン1斤分ですよね」
「そ。パングラタンはさ、1斤丸ごと中をくり抜いて、パンの器にグラタンを詰めてあるんだよ。フレンチトーストも真ん中抜いて、クリームとアイスが詰めてある。どっちも美味いぜ~」
写真を見ると、確かにどちらも美味しそうだ。雅紀は2つを見比べうーん…っと唸って
「うわぁ……どーしよ……決めらんない…」
「んじゃ、両方頼んで半分ずつ食うか。おまえは食える分だけ食えよ。残ったら俺が食ってやるからさ」
雅紀は目を輝かせ、こくこくと頷いた。
「珈琲はどーする?」
「あ。じゃあ俺、マンデリンで」
暁は頷くと店員を呼び、パングラタンとフレンチトースト、マンデリンと特製ブレンドコーヒーを注文した。
撮った写真を液晶で確認していると、注文の品が運ばれてくる。雅紀はテーブルに置かれた皿をきょろきょろと見比べ、蕩けそうな笑顔になった。
「うわ。さすが暁さんのおすすめだぁ。すっごい美味そう♪」
「だろ?こっちのはメイプルシロップたっぷりかけて食えよ。グラタンは熱々だかんな。火傷すんなよ」
雅紀はまだうろうろと視線をさまよわせ、どっちから手をつけるか決めかねている。こういう時の表情は、年より俄然子供っぽくなる。暁は笑いながらグラタンの方にフォークを伸ばし
「まずはこっち食ってみ」
そう言って、グラタンをすくうと、ふーふー息を吹きかけてから、雅紀の口の前に差し出した。雅紀はそれをじっと見つめてから、ちらちらと周りを見回し、他に誰も客がいないのを確かめてから、おずおずと口を開いた。
……おっしゃ~。お口あ〜ん、ゲットだぜっ
暁は内心ガッツポーズする。出来れば雅紀からのお口あ〜んを希望だが、この際、贅沢は言うまい。
にまにましている暁に気づいた雅紀が、赤い顔で睨んでる。そんな顔して睨んでも可愛いだけだ。
「どうだ?美味いだろ」
はふはふもぐもぐしながら、雅紀は無言で大きく頷いた。
「もう少し冷めたらさ、外側のパンの器と一緒にグラタン食ってみ。パンがサクっサクで、ソースとチーズがとろっとろでさ、マジ絶品なんだぜ」
暁は得意気に説明しながら、ひとくちすくって自分も口に入れた。
フレンチトーストの方には、ミルクピッチャーに入ったメイプルシロップを、とろーりとたっぷり回しかけていく。口の中のものを飲み込んだ雅紀は、食い入るようにそれを見つめていた。
熱々のフレンチトーストの真ん中に生クリームとバニラアイス。その上にたっぷりのメイプルシロップ。甘いもの好きには堪らない魅惑のスイーツだ。暁はナイフでザックリと切り分け、ひと口分をスプーンですくって、雅紀の前に差し出した。雅紀は周りを気にするのも忘れて、あ〜んと大きな口を開けた。
……くく…。なんつーか……雛鳥にめし食わせてる親の心境。かっわいいよなぁ。
小さな口いっぱいに頬張って、もぐもぐやってる雅紀の表情が、すっごく幸せそうで、本当にいろいろ世話の焼き甲斐がある。
「美味いか?」
「うん。美味しい…っ」
「ほれ、遠慮しねえで好きな方食え」
雅紀はフォークを手にとると、まずはグラタンに手を伸ばした。熱々をはふはふしながら頬張る雅紀を、暁は満足そうに目を細めて見つめながら、珈琲をすする。
「な、雅紀。あのアパートさ。年内に取り壊すから、他を探さなきゃいけねえって言ったじゃん?」
「あーうん。そうですよね」
「おまえのアパート、引き払ってさ、次のアパート探しに行かねえ?2人で暮らせる風呂の広いとこをさ」
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