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つきのかけら20

頭を繰り返し撫でてくれる、雅紀の手がひどく優しい。暁は声を殺してひとしきり泣くと、やがてバツが悪そうに顔をあげた。 「……ごめん…。さんきゅーな…」 「ふふ。いつもと逆だ。俺のがお兄さんだし」 雅紀の差し出すハンカチで目元を拭うと、暁は照れたように笑って 「おかげですっきりしたぜ。んじゃ、次はおまえの写真、撮らせて」 以前はなかなかモデルになってくれなかった雅紀だが、最近は暁の向けるレンズに、自然な表情で応じてくれる。 「めっちゃ美人に撮ってやるよ。これまでの最高傑作な」 まだ赤い目でウィンクしてみせる暁に、雅紀はくすっと笑って 「いつだって、まるで俺じゃないみたいに綺麗に撮ってくれてるし」 「んじゃ、いつも以上にだ。ほれ、あっちのさ、柵の前に立ってみ」 雅紀は頷くと、暁の指さす場所に向かった。 柔らかい木漏れ日の下で、雅紀が幸せそうに笑う。暁の繰り出すジョークにくすくすと笑い転げ、揶揄われてぷくんと頬をふくらませ、甘ったるい愛の言葉に照れて顔を隠す。 くるくると表情を変える雅紀の、いきいきとした姿に、暁は時の経つのも忘れて夢中でシャッターをきり続けた。 ……ああ。おまえってほんっと最高だ。愛してるぜ、雅紀。俺の……俺だけの天使だ。その笑顔はさ、永遠に俺だけのもんだからな。 「暁さん……疲れた?」 「んー。大丈夫だ。でも喉乾いたな。ベンチでちょっと一休みするか~」 暁がカメラをおろして、自分をじっと見つめているのに気づいて、雅紀が気遣わしげに歩み寄る。暁はにかっと笑って、雅紀の頭をわしわしと撫で、肩を抱いて湿地の向こう側にあるベンチに向かった。 ベンチにどかっと腰を降ろすと、ナップザックの中から小型の水筒を取り出し、蓋を開けて 「飲むか?アイスコーヒーだ」 「ううん。暁さん、お先どうぞ」 暁はごくごくと豪快にボトルをあおって、ぷはーっと息を吐いた。雅紀はきょとんとした顔で暁を見つめ、くすくす笑い出す。 「んもぉ。暁さん、それじゃあコーヒーじゃなくてビールだし」 「ははっ。マジでビールが欲しい気分だな~」 「ふふ。めっちゃご機嫌。いいのたくさん撮れました?」 「おう。多分さ、俺の人生の最高傑作かもよ?」 「えっほんと?どれどれ。見せて」 「だーめ。折角の最高傑作なんだぜ。こんなちっこい液晶じゃなくてさ、帰ってからパソコンでゆっくり見てくれよなー」 手を伸ばした雅紀から、暁は悪戯っ子みたいにカメラを遠ざけて舌を出した。雅紀はぷーっと頬をふくらませ 「えー……何それ。すっごい勿体ぶってるし…っ」 ムキになってカメラを取ろうとする雅紀を、暁はぐいっと抱き締め 「ありがとな、雅紀」 「え……?」 「おまえの可愛い顔、いっぱい撮らしてくれてさ。すっげー幸せだった」 しみじみとした暁の口調。 ……なんだろう。やっぱり今日の暁さん、ちょっと変だ…。 妙な違和感に、顔をあげようともぞもぞする雅紀を、暁は更に強く抱き締め 「カタクリってさ、花を咲かせるのに7年かかるって話、前にしたよな」 暁の手が優しく髪を撫でてくれる。 ふいに、1年前の記憶がよみがえってきて、雅紀はハっとした。 そう。あの時も暁の胸に顔を埋め、優しく髪を撫でられながら、同じ話を聞いていた。 『ひとつの株が、花をつけられるようになるまで、7年かかるらしい。それまでは1枚の葉っぱで過ごして、7年後にようやく2枚葉になって、花を咲かせるそうだ』 ……なんだろう。おかしい。暁さんの声が……。どうして?なんで?……すっごく……寂しそう…… 何故だかひどく心を締め付けられて、雅紀は慌てて顔をあげようともがいた。それなのに、暁の腕がそれを許さない。 「あき……ら……さん……」 「俺が秋音としておまえと仙台で最後に会って、早瀬暁としてこっちで再会したのも、ちょうど7年後だった。……不思議な偶然だよな。お互いに孤独に苦しみながら生きてきてさ、まるで運命みたいに再会したんだぜ。カタクリとおんなじだろ?7年後に2枚葉になって花を咲かせる、あの花とさ」 「ね……暁、さん、手…」 「秋音とおまえは出逢うべくして出逢ったんだよ。あれは偶然なんかじゃない。きっとさ、運命の赤い糸って……やつだよな」 「暁さん……っ。手、離して……ねっ顔……見せて?」 なんとか腕の中から逃れて顔をあげようとするが、暁はがっちりとホールドして離してくれない。

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