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記憶のかけら2

歯磨きを終えて、そぉーっとリビングに戻ると、ソファーの前のテーブルはテレビの脇に片付けられていて、部屋いっぱい埋め尽くしていたのは、布団2組。 この部屋の広さだから当たり前だけど、新婚さんみたいにキチンと隙間なく並べられた布団に、まさきはドキっとして、後ずさってしまった。 「お。磨いてきたか?んじゃ俺も寝る準備するか。ん?どうした?」 「あ…いえ…えっと、あっ修学旅行っ…みたいだなぁーって…あ。違うか、旅館?」 しどろもどろなまさきの言葉に、あきらは首をかしげて 「あーおまえ、家ではベッドか。新鮮だろ?布団って。客用のなんてないからさ、俺の夏用冬用ごっちゃ混ぜ。あ、でもちゃんと干してるし、シーツは洗ってるぞ」 「いや、それは全然っ気にならないっていうか、むしろ突然押し掛けちゃってすみませんっ」 あきらが唖然としている。それはそうだろう。このタイミングでそれはない。 「なんだよ、今更。急に畏まるなよ。あ、どっちでもいいから、先寝てていいぞ」 まさきの頭をくしゃっと撫でて、あきらはリビングから出ていった。 …俺、今夜ちゃんと寝られるかな…。 撫でられた頭に残る指の感触を自分の指でなぞりながら、まさきはぼんやりと、2組の布団を見下ろした。 …ほんと今さらだよな…なんで俺、ついてきちゃったんだろ。酔ってたんだな。だからちゃんと頭が回ってなかった。 友人のアパートに泊まるって、こういうことだろ。いちいち変に意識しちゃってる俺って…バカみたいだ。 最初は『彼』に似すぎていてドキドキした。 一緒の時間を共有するうちに、『彼』の面影は薄れていって。 あきらのやること、話すこと、仕草、表情。どんどん惹かれていって。 とまらなかった。まだ大丈夫。引き返せる。そう冷静に考えていたつもりだったのに。 気がついたら、もう後戻りできないくらい、好きになってしまっている。 気持ちだけがどんどん先にいって、頭が追いついていかない。 こんな辛い恋、もうしたくなかったのに。 ただ秘かに好きでいるうちはいい。共に過ごす時間は、きっと宝石みたいにきらきらと輝くだろう。 でも夢はいつか覚める。 突きつけられる現実は、きっと残酷で哀しい。 絶対に叶わない恋をして、『彼』に子供が出来てその女性と結婚すると告げられた時、宝石みたいに輝いていた時間は、音を立てて壊れた。砕け散った記憶のかけらは、鋭い刃になって、無防備だった柔らかい心に無数の傷をつけていった。 その後、長い時間をかけてようやくふさがりかけた傷口に、自分はまた、傷をつけてしまうのだろうか。 『彼』にそっくりなあきらに、また叶わない恋をして、おんなじ過ちを犯そうとしてるなんて。 ふいに足の力が抜けて、まさきはへなへなと布団の上にへたりこんだ。 …バカだな。俺。ほんとにバカだ。全然懲りてない。進歩ないよ。 でも好きだ。あきらさんが好き。 もうどうしようもない。 あきらさんが…好き。            

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