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記憶のかけら3
浮かれてるよな~。
狭いキッチンで朝食の下ごしらえをしながら、あきらは鼻歌でも歌ってしまいそうな自分に苦笑いした。
こんな風に、誰かを喜ばせたいとか驚かせたいとか、あれこれ計画して準備している、自分のマメさが意外過ぎる。
「あきらってね、誰にでも優しいし、来るもの拒まずって感じだけど、深く踏み込もうとすると、するっと逃げちゃう。絶対に近寄らせない壁があるのよ」
いつだったか、当時ひんぱんに会っていた女に、言われた言葉。
まあな。痛いとこ突いてるけど、間違ってはいない。
もともとの性格もあるかもしれないが、意識してそうしている部分もあった。
特にあの頃は、荒れていた。自分の周りを見えない壁で囲っていなければ、不安に押し潰されてしまいそうだった。
この部屋に、他人を入れたのだって、今日が初めてだ。せがまれたって拒んでいたのに、自分から誘うなんて驚きだった。
…楽しかったんだよなー俺も。
まさきといると、楽に息が出来る感じで、一緒にいるのが当然な気がした。電車に遅れるからと、焦って駅に向かうまさきに、なんだか裏切られた気分で、余裕なふりをして、内心かなり必死で引き留めていた。
好きなカメラのことだって、今まで誰にも話したことなんかない。
まるで惚れた女の気を引こうとしてるみたいで…。
いやいやいや。違うだろ、俺。弟。まさきは可愛い弟なんだよ。
今まで俺のまわりにはいなかったタイプだし。
自覚してなかっただけで、案外、俺、世話焼き兄ちゃん体質だったってことだろ。
多分…うっかりキスなんかしたから混乱してるんだ。
…そういや、いやに艶かしかったもんなぁ。あの時のまさき。鼻からもれる声とか、ゾクッとするほど色っぽかった。
…色っぽいって言えば…さっきのアレも結構キたな…。
細いけれど均整のとれた、すらりと長い足。余計な肉付きはなくて、間違いなく男のそれなのに、体毛が薄いたちなのか、白くてすべすべしてそうで。思わずちょっと触ってみたくなるような…。
おいこらちょっと待て。何考えてんだよ~。
俺はストレートだっての。今まで男相手に欲情したことなんかないだろ。
あきらは、迷走し始めた自分の脳ミソに、無理やりストップをかけた。
ダメダメだ。いい加減にしろって。最近、女としてないから溜まってんのか?
だいたい、あんなに素直に慕ってくれているまさきに対して、失礼過ぎるだろ。
あきらは下ごしらえの終わった容器にラップをかけると、冷蔵庫に入れた。
準備万端。後は顔洗って歯を磨いて寝るだけだ。
まさき…静かだけどもう寝たかな…。
目が覚めたら、俺のスペシャルモーニングを食わせて、出掛けよう。どんな反応してくれるか、楽しみだな。
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