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第6章 夜の帳の優しさとせつなさと
顔を洗ってあきらがリビングに戻ると、窓側の布団が、こんもりとふくらんでいた。
待ちくたびれて、寝てしまったのだろう。
楽しかった1日の締めくくりに、お休みを言えなかったのはちょっと残念な気がしたけど、起きたら一番に、おはようを言えばいい。
そんなに壁に引っ付いて寝なくてもいいのに。邪魔になんかならないぞー。
あきらは苦笑すると、起こさないようにそっと、自分の布団にもぐりこんだ。
なんだか不思議と心穏やかだった。胸の奥がじんわりと暖かくて、誰彼構わず優しくしてやりたい気分だ。
いや。まさきに優しくしてやりたい。
自分のテリトリーにひょっこりと舞い込んできた、ちょっと不安定な、でもとても居心地のいい存在に。
どんな顔して寝てるんだか、ちょっとのぞいてみたい気もするけど、起こしてしまったら可哀想だ。
一旦起き上がって、隣の布団の山をのぞきこもうとして思い直し、あきらはもう一度、自分の布団に横たわった。
なんだかいい夢見れそうだ。お休み…。まさき。
…あきらさん…もう寝たかな…
さっき、寝たと思ったあきらが、むくっと起きて、こちらを見ている気配を感じた。狸寝入りがバレてしまうと、まさきは緊張して息をひそめた。
すぐに気配は消えたけど、しんと静まりかえった部屋の中に、自分の心臓の音が響いてるような気がして、落ち着かない。
幸せだった1日の終わりに、感謝の気持ちを込めて、おやすみなさいと言えなかったのは残念だけど、朝起きたらまっさきに、お早うございますと言おう。
自覚してしまった想いは、みるみるうちにふくらんで、恋の始まりの幸せな錯覚だけを、無邪気に味わっていたいのに、そうはなれない自分がいる。
それでも今、多分自分は幸せだ。胸の奥がじんわりと暖かくて、なんだか泣いてしまいそうなくらい幸せだった。
だから、あきらに心から感謝したい。
色褪せてしまっていた自分の世界に、突然現れて、優しい色彩を与えてくれた存在に。
まさきはそっと布団から顔を出すと、隣で寝ているあきらの顔を見つめた。
どんな夢、見てるのかな…。お休みなさい…あきらさん。
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