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後日談 『おしおきー1』

「ね……秋音さん……あのね、そろそろ」 おずおずと話しかけてくる雅紀に、秋音はにっこり笑って 「ダメだよ。約束まで、まだあと2週間あるだろう?」 「……うん……でも……ちょっと可哀想……かも」 もじもじする雅紀の肩を、優しくポンポンと叩いて 「あいつは俺の意見にも耳をかさずに暴走して、大事なおまえを泣かせたからな。これくらいのおしおきはしてやらないと」 秋音はそう言って、またにっこり笑った。雅紀はコクコク頷いて、顔を引き攣らせた。 ……う。怖いよ、秋音さん。笑ってるのに……目が笑ってないし。 「それより、忘れ物はないか?そろそろ出掛けないと、新幹線の時間に間に合わなくなるぞ」 「あーっはい。えっと」 雅紀はキョロキョロと部屋の中を見回して、手元の旅行鞄を見下ろし 「うん。大丈夫」 「よし。じゃ、行こう」 新幹線に無事乗り込んで、座席を確保すると、雅紀はほおーっとため息をついた。 「すっごい人だった~。やっぱ東京駅は人でいっぱいだ」 「そうだな。今日は日曜日だから特に混んでいるよ。おまえ、人波に負けて連れて行かれそうになるしな」 座席にくてーっと座り込む雅紀の頭を撫でて、秋音はくく…と笑った。雅紀は頬をふくらませて 「や。だってみんな凄い顔して向かって来るから、怖くって」 「だから、手を繋ごうって言ったんだ」 「え……。それはちょっと……恥ずかし過ぎるでしょ。子供じゃないんだし」 雅紀は赤い顔でそっぽを向いた。 アナウンスの後、新幹線がホームを滑り出す。雅紀はすかさず窓にへばりつき 「……仙台かぁ……。1年ぶりだ」 独り言のように、小さく呟いた。

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