367 / 605

後日談 『おしおきー2』

そう。ちょうど1年前だった。 俺が暁として、雅紀と一緒に仙台に旅をしたのは。 あの時は、いろいろな問題が未解決で、全てが手探り状態だった。雅紀も俺も、昔の記憶という重い枷をつけたまま、もがいていた。 仙台で起きた事故。 俺の記憶が戻り、暁が沈み、雅紀が姿を消して、俺が後を追いかけて。 あの仙台行きは、俺達にとって最大の転機となった。お互いかなり辛い思いもしたが、今思えば、あの旅行こそが、全ての問題を解決へと導いてくれたのだ。 今回の仙台行きを提案してくれたのは、田澤社長だった。世話になりっぱなしでロクな礼も出来ずにいた藤堂社長に、改めてお礼方々の近況報告をと、忙しいスケジュールを調整してくれた。もちろん、ただの旅行ではなく、家出人探しの出張も絡めてはあるのだが。 「おまえ、大丈夫か?」 窓の外の風景に見とれている雅紀に声をかける。雅紀はくるっとこちらを振り返り、小首を傾げた。 「……へ?大丈夫……って……何が?」 きょとんと見開いたあどけない大きな目。相変わらず、30前とは思えぬ可愛らしい顔だ。まあ、そんなことを言えば、童顔を気にしている雅紀は盛大に拗ねるだろうが。 「いや。断わりづらかったんじゃないのか?ここまでしてもらったからな、田澤社長に」 秋音が気にしていることに気づいて、雅紀はにこっと笑い 「ううん。そんなことない。すごくありがたいお話だって思ったから、俺。藤堂さんにはきちんとお礼を言いたかったし」 にこやかにそう言う雅紀の手が、にぎにぎと動いている。あれは、緊張したりストレスを感じている時の、雅紀の無意識の癖だ。 「無理はするなよ」 秋音はそっと、その手に自分の手を重ねた。

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!