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後日談 『おしおきー5』
以前貸してもらった客間に旅行の荷物を置いて、部屋着に着替えた。ベッドに腰掛けて部屋の様子を見回していると、1年前の記憶がよみがえってきて、なんだかすごく不思議な気分だ。
事故で記憶が入れ替わり秋音に戻った彼と一緒に、怪我がある程度治るまでという約束で、ここに居候させてもらった。
あの時は、恋人の暁が消えてしまって、秋音とは昔の先輩後輩という立場でしかなくなり、切なくて苦しくて何度も泣いた。
手を伸ばせばすぐ近くにいる愛しい恋人。でも、不用意に触れることも叶わない。
近くて遠い距離が哀しくて、暁が恋しくて堪らなかった。
……そういえば……暁さん……大丈夫かな。
この3日ほど、暁は表に出て来ない。2週間前に秋音と交わした約束を、暁が我慢出来ずに破りかけて、秋音から大目玉をくらったらしい…。2人がどんな風に互いの意思を伝え合うのか、まったく想像もつかない雅紀には、いまひとつ状況が飲み込めないが、要するに2人はかなり激しい喧嘩をして、結果、暁の方が拗ねてしまったようなのだ。
仲直りの為に間に入ろうとした雅紀に、秋音は真剣な表情で首をふり
「これは、この先俺たちが上手くやっていく為のケジメなんだ。だから今は黙って見守ってくれないか?」
そんな風に穏やかに言われてしまったら、雅紀としては余計な口出しは出来ない。そもそも、秋音が暁に約束させた内容が何とも微妙で、口出ししたくともしようがないのだが。
……秋音さんは心配するなって言ってるけど……。やっぱちょっと心配。
雅紀はほお…っとため息をついて、自分の身体を自分で抱き締めた。
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