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後日談 『おしおきー8』
予想と違う雅紀の反応に、部屋の中に微妙な空気が漂う。雅紀がいつまでも口を開かないのを見て、藤堂はこほんと咳払いすると
「まだ俺が口を出す段階じゃなかったかな。後でゆっくり2人で話してみるといいよ。ところで都倉。向こうでの仕事は順調なのかい?」
秋音は雅紀から藤堂に視線を戻し
「あ、ああ、ええ。順調です。電話でも話しましたが、調査の仕事は暁の方が先輩なので、込み入った仕事は暁が担当して、俺は簡単な業務から少しずつ慣れさせてもらって」
「おまえ自身にやりがいはあるのか?この先ずっと、その仕事を続けていくつもりかい?」
秋音の言葉を遮り、身を乗り出す藤堂の目が少し厳しい。秋音は一旦口をつぐみ、穏やかに微笑んで
「藤堂さん。俺は雅紀と一緒に向こうで生きていくつもりです。探偵の仕事を一生続けていくかどうかはまだ分からない。ただ…ずっと保留にさせて頂いていた貴方への返事は」
藤堂ははぁぁっと深いため息をつくと、手を前に差し出し
「やはりそうか……。もう俺の事務所には戻らないんだな。いや、何となく予想はついていたんだが。そうか。とても、残念だよ」
がっくりと肩を落とす藤堂に、秋音は申し訳なさそうに眉をさげた。
「すみません。ずっとお待たせしていたのに、いい返事が出来なくて」
藤堂は苦笑しながら首を振り
「いや。おまえが考え抜いて出した結論なら仕方が無いさ。ただ…勿体ないんだよなあ。おまえには俺以上の才能がある。このまま俺の事務所で経験を積んでいけば、独立も夢じゃない。俺個人の気持ちだけじゃなく、すごく惜しいな、と思うよ」
しきりに悔しがる藤堂に、秋音も苦笑して
「買いかぶらないでください。俺の才能なんて、そんな大層なものじゃないですよ。でも、ありがとうございます。貴方にそこまで言ってもらえて、俺は幸せです」
「どうしても気持ちは変わらないか。俺はいつまでだって待てるぞ」
秋音は表情を引き締め、首を横に振り
「いえ。もうこれ以上貴方を待たせるつもりはありません。今回で最後の返事にさせてください」
藤堂はしばらく無言で、秋音の目をじっと見つめていたが、やがてふっきるように笑顔になると
「……分かった。残念だが諦めるよ」
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