373 / 377

後日談 『おしおきー8』

予想と違う雅紀の反応に、部屋の中に微妙な空気が漂う。雅紀がいつまでも口を開かないのを見て、藤堂はこほんと咳払いすると 「まだ俺が口を出す段階じゃなかったかな。後でゆっくり2人で話してみるといいよ。ところで都倉。向こうでの仕事は順調なのかい?」 秋音は雅紀から藤堂に視線を戻し 「あ、ああ、ええ。順調です。電話でも話しましたが、調査の仕事は暁の方が先輩なので、込み入った仕事は暁が担当して、俺は簡単な業務から少しずつ慣れさせてもらって」 「おまえ自身にやりがいはあるのか?この先ずっと、その仕事を続けていくつもりかい?」 秋音の言葉を遮り、身を乗り出す藤堂の目が少し厳しい。秋音は一旦口をつぐみ、穏やかに微笑んで 「藤堂さん。俺は雅紀と一緒に向こうで生きていくつもりです。探偵の仕事を一生続けていくかどうかはまだ分からない。ただ…ずっと保留にさせて頂いていた貴方への返事は」 藤堂ははぁぁっと深いため息をつくと、手を前に差し出し 「やはりそうか……。もう俺の事務所には戻らないんだな。いや、何となく予想はついていたんだが。そうか。とても、残念だよ」 がっくりと肩を落とす藤堂に、秋音は申し訳なさそうに眉をさげた。 「すみません。ずっとお待たせしていたのに、いい返事が出来なくて」 藤堂は苦笑しながら首を振り 「いや。おまえが考え抜いて出した結論なら仕方が無いさ。ただ…勿体ないんだよなあ。おまえには俺以上の才能がある。このまま俺の事務所で経験を積んでいけば、独立も夢じゃない。俺個人の気持ちだけじゃなく、すごく惜しいな、と思うよ」 しきりに悔しがる藤堂に、秋音も苦笑して 「買いかぶらないでください。俺の才能なんて、そんな大層なものじゃないですよ。でも、ありがとうございます。貴方にそこまで言ってもらえて、俺は幸せです」 「どうしても気持ちは変わらないか。俺はいつまでだって待てるぞ」 秋音は表情を引き締め、首を横に振り 「いえ。もうこれ以上貴方を待たせるつもりはありません。今回で最後の返事にさせてください」 藤堂はしばらく無言で、秋音の目をじっと見つめていたが、やがてふっきるように笑顔になると 「……分かった。残念だが諦めるよ」

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!