378 / 606

後日談 『おしおきー13』

かろうじて、イく瞬間にティッシュで押さえるだけの理性は残っていた。だから下着も部屋着も汚さずに済んだが、独りでしてしまった後の虚しさが半端ない。 雅紀はのろのろと身体を起こし、ベッドから立ち上がった。酔いも興奮も完全に醒め果てていた。大きなため息をつき、気怠い身体でとぼとぼと部屋を出る。 夜中に他人の家の中をうろうろしたくはないが、取りあえず洗面所で手と顔を洗ってすっきりしたい。 もうとっくに寝ているだろう藤堂と秋音を起こさないように、足音を忍ばせて階段を降りた。洗面所で手と顔を洗いトイレを済ませると、またそっと階段をあがろうとして、リビングの硝子扉から灯りが漏れているのに気づく。 ……?藤堂さん、まだ起きてるのかな。 そういえば喉がからからだ。水でももらおうかと、踵を返してリビングに向かう。 ドアを開けて中を覗き込むと、藤堂がソファーに座ってノートパソコンを開いていた。 テーブルの上には吸い殻の溜まった灰皿と飲みかけのブランデーグラス。仕事の資料もある。藤堂が顔をあげてこちらを見た。 「ごめんなさい、こんな夜中に。お仕事中でした?」 「ああ……君か。どうした?眠れないのかい?」 雅紀はおずおずと藤堂に歩み寄ると 「ちょっと……喉が乾いちゃって。お水もらいますね」 「ああ。水なら冷蔵庫にペットボトルがあるよ。それとも、コーヒーか何か入れようか?」 立ち上がろうとする藤堂を制して 「ううん。お水でいいです。俺、自分で取るから、藤堂さんはお仕事続けてください」 慌ててぱたぱたとキッチンに向かうと、冷蔵庫の前で振り返り 「あ。藤堂さんも何か飲みます?」 「ああ、そうだね。じゃあ、俺にも1本くれるかい?」 雅紀は頷いて500mlの水のボトルを2本取り出すと、リビングの方へと戻った。ボトルを差し出すと、藤堂は微笑みながら受け取り 「ありがとう。君も座るといいよ」 雅紀はちょっと躊躇してから、1人分のスペースを空けてソファーに腰をおろす。藤堂はくすっと笑ってペットボトルのキャップを外すと、ひと口飲んでから 「名前。戻ってしまったなあ」 「……え……?」 キャップを開けてボトルに口をつけかけた雅紀は、藤堂の呟きに首を傾げた。 「藤堂さん、ってね。薫って呼んでくれって言っただろ?」 「あ」

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!