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幸せのかけら2
おっ。いい反応。
ソファーに座って、夕べのアルバムに夢中になっていたまさきが、部屋に入ってきたあきらの手元を、目を丸くして見つめている。
布団をあげてすっきりした室内には、ローテーブルがちゃんと真ん中に置きなおしてあった。
あきらの持っているトレーを食い入るように見ているまさきに、内心ほくそ笑みながら、
「布団、片してくれてありがとな~」
そう言って、テーブルにトレーの上のものを並べ始めた。
まさきは我に返ったのか、慌ててアルバムを脇に置き、立ち上がった。
「あっ手伝いますっ」
「ん~じゃあさ、キッチンに残ってるの、持ってきてくれるか?これと同じトレーが、上の棚にあるから」
「はいっ」
嬉しそうにいそいそと部屋を出ていったまさきは
「あきらさん、この、スープとヨーグルトの皿?」
「おーそれそれ。カトラリーとコーヒーは、俺が持ってくから。足元、段差あるから気をつけろよ~」
こぼさないように慎重に運んでくる、まさきの真剣な表情が、なんだか可笑しい。
あきらは入れ替わりにキッチンに行き、色違いのマグカップに、淹れておいたコーヒーを注ぐと、カトラリーも揃えて、リビングに戻った。
「すごい…」
まさきは、テーブルの前に何故かきちんと正座をして、並べられた朝食を凝視している。
思った以上の好反応に、あきらはこみあげる笑いをかみ殺した。
「足、崩せよ。しびれて動けなくなるぞ」
「あきらさん、すごいっ。これ全部、今、作ったの?」
あきらの忠告は耳に入らないらしい。まるで餌を目前に待てをしている犬みたいで、頬がゆるむのを抑えきれなくなりそうだ。
「作ったっつっても、付け合わせのレタスは、ちぎっただけだし、スープは缶詰に牛乳加えて、火通しただけ」
「ふーん…。これ、フレンチトースト?」
「それはちょっと手間かけたぞ。ほんとは1日以上漬け込んだ方が、もっと美味いんだけどなー」
「夕べ寝る前に、やってたのって、これだったんだ…」
「そそ。ヨーグルトは無糖だから、生のブルーベリーの他に、ちょっと甘いフルーツソースもかけた。あ、ブルーベリー食えるか?」
「うん。好きですっ。でもほんとすごいなぁ、あきらさんって。フレンチトーストとか作れちゃうんだ…」
「簡単だよ。材料混ぜて液作って、しみこませたパンをフライパンで焼くだけ。普通は食パンで作るんだけどさ、俺はバケットの方が好きなんだ。
夕べはもう閉まってたけど、ほんとは駅前のベーカリーのバタールで作ったのを、食わせたかったんだよなぁ。
…って、喋ってたら冷めちまうぞ。ほれっ食おうぜ」
まさきは嬉しそうにうなずくと、両手を合わせ、いただきますをしてから、真っ先にフレンチトーストを頬張った。
「うっわ…美味いっ」
素直すぎる反応に、あきらはドヤ顔で
「だろ?これはちょっと自信ありのお薦めだ。簡単なわりに美味くてボリュームもあるしな。あ、甘味足りなかったら、そのメープルシロップかけてみな」
「すごいな~。お店で食べるのより美味しいっ。あきらさん何でも出来るんですね、俺、尊敬だ…」
「そんなに気に入ったんなら、後でレシピ教えてやるよ。まさきは、家で料理とかしないの?」
「う~ん…食べること好きだから、作るのも嫌じゃないんですけど。俺わりと不器用なんですよね…たまに自炊すると失敗しちゃって、材料無駄にするから、かえって不経済っていうか…」
「ふーん。器用そうな指してんのに意外だな。っつーか、多分初めから難しいの作ろうとしてんだろ」
「そうなのかなぁ…」
納得ゆかぬげに首を傾げながらも、食べるのは止まらない。コーンスープが熱かったのか、一瞬顔をしかめ、次は慎重に口に入れて、幸せそうな顔になり、レタスを頬張り、またフレンチトーストに戻り。
「朝はあんま食えないんじゃなかったのか?」
あきらは、コーヒーをすすりながら、まさきの食べっぷりを満足そうに見つめていた。
「あ~食えないっていうか、俺、朝はギリギリまで寝ていたい方で…」
「朝めしはなるべく抜かない方がいいぞ~。おまえ、ちゃんと食わないから、そんな細いんだろ」
まさきは、ブルーベリー入りのヨーグルトをスプーンで口に運びながら、上目遣いであきらを見て
「あきらさん…お母さんみたいだから、それ…」
「おい。おやじの次はおふくろかよ。性別まで変わってんだろ」
あきらの言葉に、肩を震わせて笑っている。
「コーヒーはブラックでいいか?」
「あーはい。あきらさん…このマグカップ…俺使っちゃってもいいんですか?」
急にテンションの下がったまさきの声に、あきらは怪訝な顔になり
「ん?なんで?」
「だって…これお揃いでしょ?彼女さん…気悪くしないですか?」
あきらはまじまじと、まさきの顔とマグカップを見比べて
「あーそういうことか」
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