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幸せのかけら3

「あきらさんの彼女って、幸せですね。こんな素敵なモーニングセット、作ってもらえるんだもんなぁ…」 まさきの言葉に、あきらは首をすくめて 「ばーか。作らないよ」 「…え?」 「俺の作ったこれ、食った女なんか、今まで1人もいないぜ。変な気ぃまわすなって。そのマグカップは、たまたま近所のフリーマーケットひやかしてた時に、無理やり買わされただけだ。だいたいさ、この部屋に人招いたのって、おまえが初めてだよ」 「え…。」 あきらはニヤリと笑ってみせると 「女と会う時はホテル。メシは外で食う。俺、いつもはそんなにマメじゃねえって」 「え…じゃあ…なんで…俺」 「おまえは特別。なんてったって、可愛い弟だからな」 「……。」 あきらは煙草に火をつけてふぅ~っと煙を吐きだすと 「おまえの方こそ、いるの?彼女」 まさきはマグカップを見つめたまま顔をあげない。 「いない…ですよ」 「モテるっていやあ、おまえの方がよっぽどモテるだろ?美形だし、背だって俺より低いってだけで、それなりに高いし。優しいし清潔感あるし。女が放っておかないタイプじゃねーの?」 …たしかに、ある特定の層にはモテますよ、俺。それで今まで何度か、酷い目に遭ってるし。 相手…男ですけどね。 まさきは心の中で自嘲気味に呟くと、こみあげてくる苦い思いを飲み込んだ。 「モテませんよ~俺なんか。それに、そんなに誉めても、何にも出ないです」 妙に明るい声でそう言って、顔をあげてにっこり笑ったまさきに、あきらは一瞬眉を潜め、何か言いかけて思い直し 「んじゃ、モテない同士ってことで、野郎2人、カメラ持って出掛けるかー」 「あ。待って。まだヨーグルト食べ終わってないし、コーヒーも」 「いいよ、ゆっくり食ってな。俺ちょっと、車取ってくるから」 「え?車?」 「このアパート、駐車場もないんだよ。少し歩いたとこに別で借りてる」 「あ。じゃあ俺も」 慌てて立ち上がろうとするまさきを手で制して 「いいから、ゆっくり寛いで待ってな。ついでに少し買い物もあるんだ」 「あー…はい…」 あきらは、立ち上がりついでに手を伸ばし、まさきの頭をくしゃっと撫でて、部屋を出て行った。 玄関のドアが閉まった途端、まさきは、はぁ~っと溜め息をついて、顔を両手で覆った。 …特別、とか、言わないでよ~心臓に悪い…。 でも…ここ来たの俺だけ…なんだ。これ食べたのも…。 やばっ。どうしよっ。すげー嬉しいっ。 もう弟でも何でもいいよ。あきらさんの、特別…かぁ。 「なに、おまえ、洗い物とかしてくれたんだ?」 部屋に戻るなり、あきらがそう言うと、まさきは焦ったように立ち上がった。 「あーごめんなさい。勝手なことしちゃって」 「なんで謝るんだよ。ありがとうな。で、これさ、ちょっと着てみな」 差し出されたビニール袋を恐る恐る受け取り、中を見て、まさきははっとしたようにあきらを見上げた。 「え…これ」 「テキトーに選んだからサイズ合うかなぁ。ま、いいから着てみろって」 急かされるまま、袋から取り出したのは、パーカーとジーンズで… 「中はとりあえず、今着てるTシャツでいいだろ?ほれっ早くはいてみろよ」 まさきはあたふたとジャージを脱いで、ジーンズに足を通してみた。 「お~い…それでもまだデカいのかよっ。どんだけ細いんだ、おまえ。ま、ベルトすれば何とかなるな。俺の穿いてるよりマシだろ。パーカーも羽織ってみろよ」 Tシャツの上からパーカーを羽織ると、あきらは満足そうに目を細めた。 「やっぱ、おまえ、その色似合うな」 「あきらさん…これ…今買ってきてくれたの?」 「んー俺のよく行く店。10時開店なの、無理やり開けさせてさ。あ、気にすんなよ。俺、時間不規則だからよくやるんだ。そこの店主さ、前に仕事でかなり面倒みてやったから、融通きくんだよ」 「や…それもそうだけど、わざわざ買いに行ってくれるなんて…」 「せっかく出掛けるのに、俺のダボダボの服じゃあんまりだろ。ま、ほんとは一緒に行って、好きなの選ばせたかったんだけどな、今日は時間もないし。また今度な」 「あっ…金、俺払いますっいくらですか?」 「いいよ、それは」 「やっダメです」 「そんな高いもんじゃないし、俺が勝手に買ったんだし」 「でもっ」 「それさ、おまえがここ来る時の専用な。着替え用にここに置いとくから、俺のものってことで。 それより、さっさと準備して出掛けるぞー。車、路駐してるから急げっ」 「あっはいっあの、あきらさん、ありがとうございましたっ」 あきらはにっこり微笑んで、まさきの頭を軽くポンっと叩き 「ん、素直でよろしい。あ、肝心のカメラ、忘れないようにしないとな」

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