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第9章 きらめきのかけら1
「思ったより天井、高いんだ…」
あきらが大慌てで準備してくれた、小ぶりのカメラバッグを大事そうに膝に抱えて、まさきは、車内を物珍しそうに見回している。
「まあな。前に乗ってたのは、もっと狭かったぞ~。中古でさ、チョロQみたいな見た目が、な~んかとぼけてて気に入ってたんだけどな。うっかり電信柱にちょこんとぶつけたら、びっくりするくらいひしゃげて…廃車」
「うわぁ…」
「これだって軽だから、事故ったらぺしゃんこだけどな。まさきは運転しねーの?」
「あ、免許あるけど、今は自分の車、持ってないです。仕事では社用車に乗ってるし」
「ふーん…。あ。そのバッグな、俺の予備用だから小さいんだよ」
「あーはい」
「カメラ本体とレンズ1本入れたら、いっぱいいっぱいだからさ、替えのレンズとバッテリーは、俺の方に入ってるの使えよ」
「…うん。ありがとう。
…ね、あきらさん、笑わない…かな?」
「んー?なにを?」
「俺、あきらさんがびっくりするくらい初心者。カメラ雑誌みながらいろいろ揃えてみたけど、レンズの使い方の違いとかも、よく分かってないかも…」
眉のさがった情けない表情のまさきに、あきらは優しく微笑んで
「でも好きなんだろ?撮るの」
「あ、それはもちろんっ。分かってないけど、シャッターきり始めると、なんか楽しくって。時間経つの忘れて撮りまくってて…」
「んじゃ~いいじゃん。知識なんて、後からいくらでもついてくるさ。俺だって似たようなもん。だから絶対、笑ったりなんかしない。心配すんな」
あきらの優しい横顔に、つい見とれそうになって、慌てて目を反らし
「聞いてもいいですか?」
「なんだよ、改まって」
「ん…。どうしてそんなによくしてくれるんですか?俺に」
「んー?なんでかなぁ」
「…可愛い弟…だから?」
先を越されて、虚をつかれたあきらは、でもすぐに楽しそうに破顔して
「当たり。でも他にも理由あるぜー」
「えっ…なに?」
「魔法のランプのお願い」
「は?」
何を言われたか、分かってないまさきに、あきらはちょっと得意気な顔をして
「忘れてんのか?おまえ、3つ目のお願い、まだじゃん」
「……覚えてたんだ」
「そらそうだろ。強烈な印象だったぜ。お願いが3つってのも意表つかれたけど、1つ目と2つ目の内容がさ」
信号待ちの間に、あきらはくわえた煙草に火をつけた。例の2つ折れのマッチを器用に扱う仕草に、まさきは見とれている。
「腹減った飯食わせろ、ライン友達になって、だもんなぁ」
「やっその言い方、変だからっ」
「要約するとそういうことだろ。なんだよ、納得いかない顔して。だいたいさ、3つしかないお願いだろ、もっと大事に使えよ~」
つられたのか、まさきもポケットから煙草を取り出し、好奇心いっぱいの目で、あきらのマッチを見つめた。
どうするのかと横目で様子をうかがっていると、しばらく思案してから、でも諦めたのか、残念そうにライターで火をつけている。
まさきの考えてることが、表情でわかってしまって、あきらは楽しくって仕方ない。
「3つ目のお願い叶えてくれたら、あきらさん、もう俺によくしてくれなくなるんだ」
「バカだな~まさき。頭使えよ。この先ずっと俺の願いを叶えてくださいって、最後に願えばいいんだよ」
「うっわぁ…それ、めちゃめちゃ強欲だよ、あきらさん」
「じゃあ、何願うんだよ、まさきは」
まさきはゆっくりと煙草の煙を吐き出すと
「3つ目は大事に使いたいから…まだしばらくとっておきます」
「そっか。んじゃ楽しみにしてるよ」
「…はい」
「ところで、そろそろ、目的地なんだけどさ、結構広い自然公園の一番奥なんだよ、その花の群生地。駐車場に車停めて、結構歩くんだ。中は小さな売店ぐらいしかないから…昼飯どうする?」
「そっか。今から入ったら昼またぎますね」
「弁当作って持ってこれればよかったけどな」
「コンビニ弁当…とか?」
「んーー味気ないけど、仕方ないか」
「あっ。今の。弁当屋だった」
「お。んじゃUターンするぞ」
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