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きらめきのかけら2

弁当屋で、あきらは『季節ご飯と幕の内スペシャル弁当』と『豪華のり弁満腹セット』のどちらにするか散々悩み、例の俺様っぷりを発動した。 「とりあえず両方買って、好きな方をまさきが選ぶ」 「俺の選択肢って、また2択なんだ…」 「何でもいいって言ったろ~おまえ」 「まあ…どっちも美味そうだからいいんですけど。あっ…」 公園の駐車場に車を停めて、後ろの座席から荷物を取り出していたあきらが、まさきの声に振り返り 「あっ…て何?」 「プリンと杏仁豆腐。忘れてた…」 あきらはニヤリとして 「ふふん。ちゃんと持って来てるぜ~食後のおやつにな」 「……あのバタバタ状態で忘れなかったんだ…」 「当然。よっしゃ準備OK。まさきは弁当よろしくな。さーて行きますか」 澄んだ青空が広がり、陽射しはまだ、それほどきつくもない。 時折吹きつける風は少し冷たいけど、穏やかに暖かい絶好の散策日和だった。 広い園内は、サイクリングロードに沿って大きな桜の木が並んでいた。 お花見時期はきっと人で溢れるのだろうが、桜の蕾もまだふくらみ始めの今日は、散歩を楽しむシニアや親子連れが、ちらほらいるだけだ。 桜並木から逸れて、脇の小道の、苔の生えた石の階段を降りて行くと、ひと気はまったくなくなった。 しんと静まりかえった深い森の小道に、降り注ぐのは小鳥のさえずりと、風に揺れる木の葉の小さな囁きだけで。 「日陰だとまだちょっと寒いだろ。その格好じゃ薄着すぎたな」 さっきから、喋るのも、下手するとあきらの存在すら忘れたように、キョロキョロとまわりを見回しながら、先を歩いていたまさきが、驚いた顔で振り返った。 …本気で俺のこと忘れてやがったな… 「え…えーと…なに?」 「なに?じゃねーよ。俺の存在消し去ってたろ」 まさきは焦ったように戻ってきて 「や、そんなことないし」 あきらは苦笑して、カメラバッグとデイバッグを足元に置き、皮のジャケットを脱いで 「荷物置いてこれ羽織っとけ。この先も森ん中だし、湿地んとこ抜けるから寒いぞ」 「いやっそれじゃあきらさんが…」 「俺は着込んでるから暑いんだよ。いーから着ろって」 「え…でも」 まさきがしぶしぶ荷物を置くと、強引に肩に羽織らせてくる。 「暑くなってきたら脱ぎゃいいから…ってか、デカいな、やっぱ」 また嬉しそうに笑いながら、しげしげとこちらを眺めているあきらに、まさきは嫌そうに顔をしかめた。 「言うと思った!俺が小さいんじゃなくて、あきらさんががっしりし過ぎなのっ。日本人離れしてるでしょ、体格。背だって肩幅だって」 「特別鍛えちゃいないんだがな。筋肉つきやすい体質らしい」 「羨ましいなぁ…俺なんかジム通ってみたけど全然。かえって細くなったとか言われてがっかりだし」 「ま、細いけど均整とれてるし、おまえは筋肉ムキムキじゃない方がいいよ。なんか顔と釣り合わないし」 「だから童顔気にしてるって言ってんじゃん…」 あきらは、バッグからカメラとレンズを取り出して 「さっきから、撮りたくてウズウズしてんだろ。遠慮してないで、カメラ使えよ」 ぶつぶつ文句言ってたまさきの顔が、パっと笑顔になる。 「あっいいの?」 「その為に重いの担いできてんだろ。レンズはそっちに一緒に入れたヤツ使ってみな。50mmF1.4。単焦点だからズームはできないけど、ボケ感楽しいし構図の勉強にもなる」 「単焦点レンズ…」 「撮るものが特に決まってない散策写真なら、これ1本つけて歩いてみろよ。被写体見つけたら、近づいたり遠ざかったり、工夫次第でいろんな構図が撮れる」 難しい表情になって、しゃがみ込み、恐る恐る本体にレンズを装着してる、まさきの頭をぽんっと軽く叩いて 「フィルムじゃないからな、何枚でも撮り直しできるんだ。怖がんないでガンガン撮ってみな」 まだうんうん唸ってる感じのまさきに、あきらは笑いを噛み殺し、自分のカメラにもレンズをつけて、階段を少し降りて行き、振り返ってシャッターをきった。 モニターには、目を丸くして驚いた顔のまさきが映ってる。 「あっ今、俺撮ったでしょ。やだっ、あきらさん、消してっ。不意打ちの顔はダメだって」 「なんでだよ~。めっちゃナチュラルで可愛い顔してるぜ」 「うわっさいてーだよ。モニター見て笑ってんじゃん。それ絶対、変顔してるでしょっ」 焦りつつも慎重にカメラを首からさげ、弁当はその場に残して、追いかけてきたまさきをかわして、あきらは階段をかけあがり、 「弁当、俺持ってくから、そのままこの道、進んでいきな。階段降りきったら二股に分かれてるからさ。それを右な。左行くと梅園の方に出るけど、もう梅は終わりだから」 まさきは、撮られた自分の写真と、この先の未知の世界からの誘惑とを天秤にかけ、誘惑に負けたのか、あきらを怖い顔で睨みつけてから、カメラ片手に階段を降りて行った。

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