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きらめきのかけら3
先に行ったまさきは、小道の両脇を、右へ行ったり左へ行ったり、何か気になるものを見つけては、のびあがったり、しゃがみこんだり忙しそうだ。
急に真剣な顔つきになり、ファインダーを覗いてシャッターをきり。
モニターをチェックしては、ため息をついて首をひねり。
同じ被写体に近づいてみたり、角度を変えてみたり。
何枚か撮って、ようやく納得できたのか、モニターを見る表情が、柔らかくほころぶ。
最初は、恐る恐るといった感じだったのに、すっかり手に馴染んだのだろう。肩から変な力が抜けて、シャッターをきってる姿も様になっている。
…被写体としてもいい感じなんだよなぁ…
さっき、まさきは盛大に嫌がっていたが、不意をつかれてはっとした瞬間を切り取った写真は、さりげないのにひどく印象的で美しかった。
あきらは小道をそれて、森の中に足を踏み入れると、まさきの顔が見える角度で、さりげなくカメラを構える。
あの後すぐに、レンズを300mmの望遠に替えて、すでに何枚かまさきを撮っていた。ちょっとストーカーちっくで気がひけるが、目まぐるしく変わる彼の表情は、今この空間のどの被写体よりも魅力的だった。
ふいにまさきが立ち上がり、キョロキョロと何か探し始めた。
…やばいっ
探しているのは多分、自分だろう。あきらは慌ててレンズの向きを変え、鳥でも撮っている風を装う。
「いたっ…あきらさん」
「おう。どした?」
すぐそばまで駆け戻ってきた彼の頬は、軽く紅潮している。なんだかひどく嬉しそうな様子だ。
「あっ…ごめんなさいっ。邪魔しました?」
あきらは構えていたカメラをおろすと、内心の後ろめたさを隠してにっこり笑い
「いーや、全然。それよりどうした?えらくご機嫌な顔してんな」
あきらの言葉に、まさきは目をきらきらさせて
「あーうん。ちょっと…見てもらってもいいですか?」
「なに。いいの撮れた?」
がさがさと下草を踏み分け小道に戻ると、まさきは何故か尻込みしている。
「や…いいのっていうかは分かんないんですけど…」
「なんだよ、見せてみろって」
言いながらまさきのカメラを覗きこむ。
「あきらさんが言ってたボケ感って…こうゆう感じ?」
まさきがおずおずと指差したモニターには、使われなくなって放置されていた手押し車が、まわりから伸びてきたツタに侵食されて、自然のオブジェになっている姿が映っていた。
鬱蒼と生い茂る木々の隙間から、射し込む柔らかい木漏れ日を受けて、朽ちてゆく無機質と、逞しく伸びていこうとする植物の対比が、とても印象的だった。
「お。いいじゃん。ピントは手前の、このツタの新芽に合わせたんだな」
「あ、はい。違う角度とか距離でも撮ってみたんだけど、こっからのアングルが一番しっくりくる気がして…」
「こういうのって案外撮るの難しいからな。下手に全体捉えようとすると、平凡な絵になっちまう」
「そうなんですっ。最初撮ったら残念な感じになっちゃって…」
少し興奮気味に話すまさきの、真っ直ぐな表情が、なんだかひどく眩しい。
…望遠でこっそり狙うより、単焦点でスナップ撮りてーなぁ…でもこういう自然な顔、撮らせてくんねえだろーなぁ、こいつ。
心の中でよそ事を考えながら、あきらはにっこり微笑んで
「いい感じに撮れてるよ。新芽に焦点絞ってるから、まわりも綺麗にボケてて、見せたいものがちゃんと伝わってくる」
「ほんと?うわぁ…なんか嬉しいなぁ…。俺、このレンズで撮るの、すっごく楽しいかも」
「もっといろいろ撮ってみろよ。きっと新しい発見あるぜ」
「はいっ」
まさきは嬉しそうに頷いて、また小道の先の方へ歩き出した。
あきらは、休憩スペースに置かれている古いベンチに腰かけると、煙草を口にくわえマッチで火をつけた。
…あの調子だと、群生地行く前に昼飯だな。手前の広場の階段あがってくと、たしか展望台があったはずだ。
それにしてもあいつ…28であの可愛さって…どういうことだよ?
今朝キスした時も、ほんとに男か?って思わず確認しちまった。ま、ちゃんとつくものついてたけどな。
あん時、まさきに思いっきり蹴られなかったら、俺まずかっただろ…完全に勃っちまってたもんな。
…なんか自信なくなってきた。俺、ストレートじゃなかったのか?ひょっとして男もいける…のか?
「………。」
…いや。あいつが特別なんだな。あいつ以外の男とキスするとか…想像できんわ。でもなんであいつは特別なんだよ?
「………。」
…わからん。
あきらは、煙草の煙をため息とともに吐き出すと、また何かに夢中になり始めたまさきの後ろ姿を、ぼんやりと見つめていた。
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