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後日談 『おしおきー15』

「俺は限りなくゲイ寄りのバイだからね。本気で好きになるのは同性だけだし、ノンケの男を好きになって辛い思いをした経験もある。 君がもし、都倉との恋愛に疲れてしまったら…いつだって俺は、君の帰る場所になってあげられるんだ」 「……帰る……場所」 「そう。俺は君のしんどさを分かってあげられるよ。同志だからね。俺が結婚に失敗したのは、そのノンケ相手の失恋のせいなんだ。 大好きなコがいてね。向こうも俺を好きだと言ってくれた。でもいろいろあって……結局そのコとは別れたよ。自暴自棄になっていた俺を、慰めて励ましてくれた女性がいて。彼女となら上手くやっていける気がした。実際、結婚して3年は続いたんだよ。……でもやっぱりだめだった。彼女とは今でも、いい友達だがね」 少し遠い目をして、ぽつぽつと昔の話をする藤堂の横顔を、雅紀は神妙な顔で見つめていた。 淡々と話す彼の口調は、もう吹っ切れているように感じる。でも、ファミリータイプの広すぎるマンションに、今も独りで暮らす彼の、哀しい孤独が透けてみえた。 才能があって仕事で華やかな成功をおさめていて、快活で大人で自信に満ち溢れていて。雅紀から見たら羨ましいくらい完璧に見える藤堂にも、消化しきれない過去があり、その痛みを引きずって生きている。 しょんぼりしてしまった雅紀に、藤堂は気を取り直すように笑って 「なーんてね。ちょっとしんみりしてしまったな。すまんね。俺としたことが飲みすぎだ」 「いえ。藤堂さんにもそういう哀しい過去が、あるんだって……。辛かったですよね……」 哀しそうに手元を見つめ、みるみる目に涙を滲ませる雅紀に、藤堂は苦笑して 「君は、ほんとにいいコだな。優しくて素直で純粋で。そういう君が俺はすごく心配だよ」 藤堂はそう言いながら立ち上がり、雅紀の顔に手を伸ばした。そっとその綺麗な頬に触れてみる。 雅紀ははっと顔をあげ、息を飲んで身構えた。いつの間にか藤堂の顔が目の前にある。この近さは…まずい。 「俺は君が好きだよ、雅紀。君をもっと幸せな笑顔にしたい。都倉がそれを君に与えてやれないのなら」 「っ藤堂さん……っ待って。俺」 「俺にしとけよ、雅紀。おまえの辛さを分かってやれない都倉なんかより、俺にしておけ。俺の方が」 「ストップ。そこまでです。藤堂さん。雅紀から離れてください」

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