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後日談 『おしおきー16』
秋音の声が響く。いつの間にかドアが開いて、秋音が立っていた。つかつかと歩み寄ると、険しい顔で藤堂の肩を掴んだ。藤堂は首を竦めて身を起こすと、呆然としている雅紀に優しく微笑んで片目を瞑ってから、秋音の方に向き直り
「やれやれ、騎士の登場かい。今いい所だったのになあ。おまえはいつもそうやって俺の邪魔をする」
秋音は眉をひそめ、憮然とした声で
「酔ってますね?俺の雅紀にちょっかいをかけるのは止めてください」
藤堂ははあ…っと大きなため息をついて、秋音の手を振り払い、よろよろっと後ずさって、ソファーの向こう端に腰をおろし
「俺の雅紀、ねえ。だったら都倉。もうちょっと雅紀を見ろよ。もっときちんとお互いの本音ぶつけあって話し合え。おまえらは傍で見ていてはらはらするんだよ」
秋音は雅紀に手を差し伸べ、ひょいっと引き起こした。
「それは俺も痛感していたところです。貴方に言われなくても、雅紀とはきちんと話し合いますよ」
むっとしている秋音に、雅紀はしょげた顔で俯いた。
藤堂と不用意に2人っきりになるなと忠告されていたのに。
秋音はきっと、隙を作った自分に対しても怒っているに違いない。
すかさず藤堂が秋音に目配せした。秋音は藤堂の言いたいことに気づくと、表情を和らげ、優しく雅紀の頭を撫でて
「さ、部屋に戻るぞ。藤堂さん、おやすみなさい」
「……ああ。おやすみ。あ、都倉」
「何ですか?」
「おまえの部屋のデスクの上に、お役立ちグッズを置いておいた。どれも新品だから安心して使え」
秋音は怪訝な顔で首を傾げた。
「お役立ちグッズ……?」
「今の雅紀の状態じゃ、俺じゃなくても手を出したくなるぞ。妙な色気とフェロモンがダダ漏れだ。恋人ならその辺もフォローしてやれよ」
ため息混じりの藤堂の言葉に、雅紀はぽかんとして、秋音と顔を見合わせた。藤堂はやれやれというように肩を竦め
「目の毒なんだよ。頼むからライオンの檻に旨そうな餌をチラつかせるような、残酷な真似は止めてくれ」
秋音は呆れたようにため息をつき
「ご自分がライオンだったっていう自覚はあるんですね。だったら今後は紳士らしく自制してください。
ほら、雅紀、行くぞ」
雅紀はきょとんとして、2人の顔を見比べていたが、藤堂の言葉の意味にようやく気づいたのか、途端に顔を真っ赤にして
「なっ、や、ちょっと待って。お、俺、フェロモンなんか出してないしっ。ってか、餌って何?俺が餌ってこと?!」
「おまえ、反応が遅すぎだ。いいから来いって」
赤くなりながらぷりぷりと抗議し始めた雅紀の肩を抱き寄せ、宥めながら藤堂の方を振り返る。藤堂は悪戯っぽい顔で秋音にウィンクして、早く行けよと手で追い払った。
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