383 / 606

後日談 『おしおきー18』

「分かっている。おまえが俺と暁を単純に比べて言ったわけじゃないってことはな。暁を特別だと言ったおまえの気持ちも、理解しているつもりだ。だいたい、暁は俺だ。自分に嫉妬するなんて馬鹿げている。頭では分かっている。でもこの辺がもやもやしてな。どうしようもない」 秋音はそう言って自分の胸を押さえた。 思ったことを割とストレートに口に出す暁と違って、秋音はあまりこういったことを表に出さない。 それは秋音の個性だし、もちろん雅紀はそういう秋音も大好きだ。 でも、表に出さないからと言って、何も感じていないわけじゃなかったのだ。開けっぴろげな暁と同じ、意外と子供っぽい独占欲や嫉妬心が、秋音の中にも隠れている。 「……嫉妬……してくれたんですか?秋音さん。焼きもちやいてくれたの?」 秋音はちらっと雅紀を見て、また気まずそうにすっと目を逸らし 「そうだ。馬鹿げているだろう? ……軽蔑……するか?」 拗ねた口調に拗ねた顔。 本当に子供みたいで、すごく可愛い。 雅紀は手を伸ばして、秋音の頬にそっと手を当てた。 「軽蔑なんかしない。俺のこと……欲しいって思ってくれた?」 「当たり前だろう。俺は、いつだって、おまえが欲しいよ。暁にくだらない約束をさせたことを、ずっと後悔していたんだ」 触れられない。そのことでもやもやしていたのは、自分だけじゃなかった。秋音も同じように欲しがってくれていた。全然平気なんかじゃなかったのだ。それが……すごく嬉しい。 雅紀は目に涙を滲ませて、嬉しそうにふふ…っと笑うと 「そっか……。秋音さんも欲しがってくれてた……。俺だけじゃなかったんだ」 ほっとして気持ちがゆるんだのか、雅紀の目からぽろんと涙が零れた。それを見て秋音は辛そうに顔を歪め 「おまえを泣かせているのは暁だけじゃない。俺も同罪だな」 指先でそっと涙を拭うと 「つまらない意地を張って、おまえを悩ませて悪かった。もうこんなバカみたいなおしおきは終わりにしよう」 秋音は優しく微笑むと、雅紀の顔を両手で包んだ。雅紀はくしゃっと泣き笑いの表情を浮かべたが、秋音の唇が触れそうなほど近づくと、ちょっと焦ったように、秋音の口を手で押さえ 「待って、秋音さん」 「どうした?キスは……嫌か?」 雅紀は頬を染めてぷるぷると首を振ると 「ううん。嫌なわけ、ない。ただ」 「ただ……なんだ?言ってくれ」 雅紀はもじもじしながら、秋音の目を見つめて 「今キスしちゃったら……後で暁さんと……喧嘩にならない……?」 雅紀の言葉に秋音は目を見開き、一瞬間を置いてから破顔して 「確かに……。あいつきっと、約束違反だろーって怒り狂うな」 「ですよね」 「だが、俺は今、猛烈におまえにキスしたいんだ。あいつには後で謝るよ」 秋音にしては珍しい位のストレートな要求に、今度は雅紀が目を丸くした。 「うわ。も、猛烈に……?」 「ああ。おまえが欲しいよ。欲しくて堪らない」

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!