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後日談 『おしおきー28』
藤堂のマンションを出て、地下鉄で仙台駅前に向かう。
ターミナルでバス時間を確認してから、近くの花屋で大きな花束2つと小さなブーケを買った。バス停でバスを待つ間も、雅紀はカメラ片手にキョロキョロと落ち着かない。
朝起きてからずっと、雅紀は何となくそわそわしている気がする。秋音は雅紀の構えているカメラをひょいっと取り上げて、顔を覗き込んだ。
「どうしたんだ?今朝からおまえ、何だか変だぞ」
途端に雅紀は悪戯を見つかった子供のような顔をして、ぷいっと目を逸らす。
……やっぱりおかしい。
心なしか、その顔が赤い気がして、秋音は眉を寄せた。
「具合でも悪いのか?もしそうなら我慢せずに言えよ」
雅紀はちらっと秋音を見て、ますます顔を赤くして
「……ううん。具合、悪くない……です」
「じゃあ、なんだ?」
雅紀はしばらく口ごもっていたが、やがて意を決したように秋音を見上げて
「なんか……秋音さんの顔、すっごく眩しいんです……」
「…は?」
妙にもじもじしている雅紀に、秋音は首を傾げた。
「眩しい……?俺が?……どうしてだ」
「や……えっと。あの……」
赤くなって目を逸らしている雅紀は、明らかに照れている気がする。
……ん?……照れている?
「……どうして照れる」
雅紀は眉を八の字にして、秋音の袖を掴むと
「……分かんない……でもなんか……恥ずかしい……」
秋音はまだ腑に落ちない顔のまま
「……昨夜、久しぶりにエッチしたから……か?」
真顔で問いかけられて、雅紀は瞬時に耳まで真っ赤になり
「っ秋音さん、声っ大きい……っ」
更に1人で照れまくっているところを見ると、どうやら図星らしい。
……いまさら何故……照れるんだ?
再会してから1年。同棲して3日と空けずに身体を重ねてきた。いい歳をして、我ながら元気なものだと呆れるが、禁欲生活はここ3週間だけだった。それなのに、まるで初めての夜を過ごした後のような、雅紀の初な反応が……不思議だ。
……というか、可愛い……。
秋音はふいに、くくっと笑い出した。その反応に雅紀は、傷ついたような顔になる。
「っ……笑うなんて酷いしっ」
秋音は懸命に笑いを堪えて、雅紀の手を掴んでぎゅっと握った。その不意打ちに、雅紀は今度は焦った顔で
「っ人が見てるでしょっ」
慌てて振りほどこうとする雅紀の手を、ぎゅっと握り締めて離さず
「騒ぐな。かえって目立つぞ」
そう囁いて、握り締めた雅紀の手ごと、上着のポケットに突っ込んだ。
雅紀は抵抗するのを止め、赤い顔を俯けて、秋音にぴとっと寄り添った。ポケットの中で繋いだ手のぬくもりが、嬉しくて幸せだった。
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