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後日談 『おしおきー36』※

かくんっと脱力して、暁の上から転げ落ちそうになる雅紀の身体を、暁は抱き締めた。余韻にびくつき、必死にすがりついてくる、華奢なこいつが愛おしくて堪らない。 昨年から独りで思い詰め、いずれ来る別れの時ばかりを気にして過ごしてきた。今思えば、馬鹿らしいにもほどがある。俺が雅紀と別れることなんて、出来るはずなかったのだ。 秋音は俺の心なんてお見通しだったのだろう。……まあ、同じ人間なのだから、当然と言えば当然なのだが。 俺の馬鹿さ加減に呆れつつも、秋音は雅紀には何も言わずにいてくれた。俺自身が雅紀と本音をぶつけ合い、解決出来る道を残してくれていた。あいつだって内心は、複雑な気持ちもあっただろうに。 かけがえのない雅紀という存在。こいつとの未来という選択肢を、俺に許してくれた秋音。俺はくだらない嫉妬なんか引っ込めて、あいつに感謝しなくちゃいけねえよな。 びくつきがおさまって、しがみついたまま放心している雅紀の髪を、暁は優しく撫でた。雅紀はそろそろと顔をあげ 「……暁……さん……」 小首を傾げる雅紀の目が赤い。暁はその目元に残る涙の跡を、指先でそっと拭った。 「んーどうした?」 雅紀はくすぐったそうに、目をきゅっと細めてから、まだとろんとした表情で 「秋音さんと、喧嘩……しない?」 暁は苦笑して 「しねえよ」 「また喧嘩して、拗ねて、出て来なくなっちゃったりしないで」 心配そうに眉をさげる雅紀に、暁はわざとちょっと難しい顔をして 「や。ほんとはさ、約束破っただろーって、怒る気満々だったけどな」 その言葉に、雅紀は一瞬目を見開き、哀しそうに表情を曇らせた。 「俺が、悪いんだから。俺が我慢出来なくって、秋音さんに抱いてって言ったんです。だから2人は喧嘩しないで」 暁はにかっと笑ってみせて 「ばーか。おまえはなんも悪くねえし。ほれ、そんな顔すんなって。俺がさ、大人げなかっただけだ。ごめんな。心配させちまったよな」 「暁さん。……怒ってない……?」 「ああ。怒ってねえよ。むしろさ、秋音とおまえに、感謝してたとこだ」 雅紀は不思議そうな顔になり 「え……感謝……?」

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