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後日談 『おしおきー39』

雅紀は言葉を詰まらせた後、隣の暁を上目遣いに見つめた。 「ん?」 にこにこしながら首を傾げる暁をじっと見つめ 「俺……籍に入れてくれるの?……ほんとに養子縁組するんですか?」 「俺はそのつもりだぜ。秋音もな。でもおまえが嫌なら、無理にとは言わねえよ。決めるのはおまえだ」 雅紀は暁から視線を外し、座卓の上の料理を黙って見つめた。その様子を横目にしながら、暁は料理に箸を伸ばす。 「俺は正直、秋音ほど籍についてはこだわってねえんだ。今どき男と女だって、籍は入れねえで同棲だけしてるってのもザラだしな」 ひょいとつまみ上げたおかずを雅紀の口元に持っていき、食えよと促す。雅紀は顔をあげおずおずと口を開けた。 「まあな。おまえが迷う気持ちも分かるぜ。おまえには家族の問題があるだろ。まだご両親に、俺らの関係認めてもらってねえわけだしな」 ……そうなのだ。 今年の初めに、秋音と2人で実家に挨拶に行った。予想通り、父は激怒し母は泣き出し、それでも何とか説得しようとしてくれた秋音に、父は花瓶の水をぶちまけた。秋音はそれでも父母に頭を下げて食い下がってくれたが、雅紀の方が我慢の限界だった。泣いて2人に抗議して、もう2度と家には戻らないと怒鳴り、引き止めようとする秋音の手を振り切って家を飛び出した。 あの時の悔しさや怒り、情けなさは、今思い出しても胸がきりきりと痛くなるほどだ。 自分が父母に傷つけられるのはまだ耐えられる。でも、秋音を罵倒して貶めたのだけは絶対に許せない。 もう彼らとは絶縁状態でいい。どうせ、自分のことを頭から否定し無視してきた親なのだ。今更、分かり合えるとは思えない。 秋音と暁が養子縁組を、と言ってくれる気持ちは嬉しい。 彼らと新しい家族になる。これから先の未来を共に生きていくと誓う、そのことは本当に嬉しい。 ただ……自分が秋音と法的に親子になることで、あの父母が秋音に言い掛かりをつけたり、何か嫌がらせをしたりしないか……それが気にかかるのだ。自分のことで秋音を困らせたり傷つけたりするかもしれない。それが何よりも怖い。 暁が口に入れてくれたものをぼんやり咀嚼しながら、雅紀は難しい表情で考え込んでしまった。

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