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後日談 『おしおきー45』

雅紀はこくんと頷くと、暁の胸に飛び込んでいく。 直前まで湯に浸かっていたのだろう。暁の身体は温かくて、その逞しい腕でふんわり包み込まれると、ものすごく安心する。 雅紀はほぉっと吐息を漏らした。 「なに、ぼんやりしてた?」 耳からだけじゃなく、触れ合う素肌を通して、暁の心地よい低音が伝わってくる。 「ぅうん……何でも……ない」 月明かりに照らされた、貴方の彫刻のような身体に見とれてたなんて、照れ臭くて言えない。 「言えよ。気になるじゃん」 「……気持ち…いぃ……」 雅紀は問いには答えずに、ぎゅうっと暁の身体に自分の身体を押し付けた。思わず漏れた溜息のような呟きに、暁はふっと笑って 「いいよなぁ。裸で抱き合うのってさ。俺もすっげー気持ちいいぜ」 こくこく頷く雅紀の柔らかい髪が、頬をさわさわと掠めて擽ったい。 さっき入口でぼんやりと佇んでいた雅紀の姿。月明かりに照らされた仄白い肢体は、すらりとバランスが良くて、はっとするほど美しかった。そして、見る度に愛しくて堪らなくなる大好きな顔。 ……く~。やっぱ、可愛いよなぁ……。 暁は腕の力を緩めると、自分の胸元から顔をあげた雅紀の頬に、自分の頬をすり寄せた。雅紀はもじもじして、首を竦め 「……ふふ……暁さん、や、擽ったいし」 「だってさ、おまえ、食べちまいたいくらい可愛い」 「……俺、食い物ですか」 くすくす笑う雅紀の唇に、リップ音をたててキスすると 「ずーっとこうしていてえけどさ、さすがに冷えちまうな。ほら、浸かるぜ。足元滑るから、気を付けろよ」 「うん」 暁に手を引かれ、岩場の間から湯の中に、そろそろと足を踏み入れた。 熱めの湯が、外気で冷えた身体にじわじわとしみていく。ゆっくりと腰まで浸かると、雅紀は気持ち良さげにふぅっと吐息を漏らした。 暁と並んで温泉に浸かり、空を見上げる。星の瞬く空に冴えざえと輝く月が綺麗だ。 ……暁さんと……世界で2人だけになっちゃったみたいだ……。 昨年と同じことを想った。 でも、この人と2人きりなら、寂しくない。 湯の中で暁と手を繋ぎ、ぴとっと身体を寄せた。 「ドレスは冗談だけどさ、どっか小さな教会でさ、2人だけで結婚式しようぜ」

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