411 / 605

後日談 『おしおきー46』

暁の言葉に雅紀はふふっと笑って 「うん。ドレス着ないならいいかも。でも……男同士で式をさせてくれる教会なんて、あるかなぁ」 「まあな。普通の教会なら無理かもな。でも、ひとつだけ、ちょっと心当たりあるんだ。前に仕事で知り合った人でさ。もしかしたら許可してもらえるかもしんねえの。な? 許可もらえたらさ、いいだろ?」 雅紀は夜空の月を見上げ、ちょっと想像してみた。 ゲイだと自覚していろんな酷い経験をしてから、世の中の普通とされていることは、自分には縁がないのだと思うようにしていた。恋愛も結婚も家庭を持つことも、夢見ることさえ諦めていた。 そんな自分が、暁とちゃんと恋をして、籍を入れて、家庭を築く。しかもその上、教会で結婚式まであげてくれると言う。 ……どうしよう……。俺ちょっと……幸せ過ぎるかも。 夢ならば醒めないでと願う。しかもこれは夢なんかじゃない。 「暁さん」 「んー?」 「ありがとう。俺……嬉しい」 月を見上げたままの雅紀の頬に、つつーっと涙が伝い落ちた。暁は手を伸ばして雅紀の頭を抱き寄せ 「ん。じゃ、約束な。俺らだけでいい。神様の祝福なんか要らねえよ。俺はお前に。お前は俺に。永遠の愛を誓い合おうぜ。な?」 「うん」 そのまま2人は並んで月を見上げ、しばらく無言のまま時を過ごした。 「そろそろあがるか? のぼせちまうだろ」 そう言って暁が立ち上がる。雅紀は手を引かれて一緒に湯船から出て、そのままあっさり庭の方に向かう暁の手を、ぎゅっと引き止めた。 「ん? どーした」 振り返り、不思議そうに首を傾げる暁に、雅紀はもじもじしながら微妙に目を逸らして 「しない……の?」 「へ?」 ……へ? ……じゃないし。んもぉ……暁さん、今日に限って超鈍感。 「……露天風呂で……えっち……しないの?」 目を逸らしながら囁くような声で言う雅紀に、暁は一瞬虚を突かれたような顔になり 「え……や……。いいのかよ、ここでしても」 雅紀は耳まで赤くして、こくんと頷いた。 「あ……でもさ、俺、なんも準備してきてないぜ」 雅紀は首を横に振り、入口近くにさっきそっと置いておいたローションの瓶を指さす。暁は途端ににやりとして 「準備万端じゃん。OK。んじゃ」 いったん雅紀の手を離して、ローションの瓶を取って戻ると 「途中でやだって言ってもさ、止めてやれねえからな」 色気の滲んだハスキーボイスで、雅紀の耳元に囁いた。

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!