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第12章 蒼いつき1

「どうだ?これだーっていうの、撮れてたか?」 アパートに戻り、ソファーに座って、まさきは今日撮った写真を液晶モニターで、1枚ずつ見ていた。 あきらはテーブルにコーヒーを置くと、隣に腰をおろして液晶をのぞきこむ。 「あっありがとうございます」 「どういたしまして。随分、夢中だな」 「や、これだ~っていうのなんかないけど…俺、1日でこんなに撮ったの初めてで。レンズの使い方も、いまいちよく分かってなかったから、なんか嬉しくて…」 「そっか。ま、俺が教えたのなんか自己流だからな、参考程度にしてさ、自分の好きなように撮ったらいいんだよ」 「いやっすごく勉強になりました。それに楽しかった~」 「ははっそりゃあ、よかった。今度また別んとこ、連れてってやるよ。俺のとっておきの場所な」 「うわっそれ楽しみだなぁ。あきらさんのとっておきか~。 今日のカタクリだって凄かった…。俺、花とかよく知らないから、最初、花の群生って聞いても、ピンとこなかったんですよね。 でも実際見たらあれだもん、ちょっと…衝撃的でした」 まさきはカメラをテーブルに置き、マグカップを持ちあげて、その光景を思い出しているのだろう、遠くを見るような顔つきになり、 「綺麗だとか華やかだとか、そんなんじゃなくて、もうほんと見た瞬間、金縛りになった感じで。なんだろ、現実じゃない、夢の世界に迷いこんだような気がした」 「そっか」 「おおげさに聞こえるかもしれないですけどね、俺にとってはそんな感じでした」 「泣いちゃったもんな、おまえ…」 あきらの言葉に、まさきは途端に顔を赤らめ、隣を睨み付けて 「それは忘れてっ。花見て泣くとか、自分でもショックだったんだからっ」 「忘れないよ。綺麗な涙だった。ほれ、そんな顔しない。いいじゃん、別におかしくないだろ。感受性がそれだけ豊かだってことだよ。 なんかさ、俺は羨ましかったな」 「え…」 「俺も初めてあの光景見た時さ、感動したんだ。こう、なんつーの?鳥肌たつ、みたいな。 ずっと探してたものに、ようやく出逢えたような気がしてさ」 「ずっと探してたもの…」 あきらは、照れたように鼻の頭を指でこすって 「もじ丸でさ、おばさんの料理食った時に言ったろ?精神的にどん底だったって」 まさきは神妙な顔になり、コクンとうなづいた。 「いろんなもの見失っててさ、俺、あの頃ほんとに酷かったんだ。 頭ん中真っ白。右見ていいんだか左なんだか、前に進めばいいのか、後ろ向いたらいいのか。まったくわかんない感じでさ。そんな自分に苛立って、荒れててさ」 まさきの真剣な表情に気づいて、あきらは苦笑いしてみせて、 「もじ丸のおやじさんが、古いカメラ、俺に渡してさ、一緒に来い、綺麗なもん見せてやるからって。 …で、連れてってくれたのが、あのカタクリの群生地だぜ。 見た瞬間、泣きそうになった。なんだ…ここだったのかって。 でもどうしても泣けなくてさ、ただひたすらカメラのシャッターきってた」 あきらは腕をのばして、まさきの頭をくしゃくしゃ撫でる。まさきは嫌がらずに大人しくされるままになっていた。 「おまえの涙。ほんと綺麗だったよ。 泣けなかった俺の代わりに、泣いてくれた気がした」 「あきらさん…」 あきらは重たくなった空気を変えるように、にっこり笑って、くしゃくしゃになったまさきの柔らかい髪の毛を優しくなでてから 「悪かったな、なんか重たい話でさ。さてと。そろそろ着替えて出掛ける準備な。あ、撮った写真は、次来る時までに、パソコンにおとしといてやるよ」 「…重たくないです。あきらさん、話きかせてくれて、ありがとうごさいました」 ペコリと頭をさげたまさきに、あきらは目を丸くしてから、ちょっと泣きそうになって、慌てて笑って誤魔化し、 「なんだろな~おまえって…くそ~~やっぱ可愛いぜっ」 せっかく撫で付けた髪の毛を、今度は両手でぐしゃぐしゃと、かき回し始めた。 「ちょっあきらさんっやめてっ。ちょっと、やり過ぎっ。目回るからっやめてって!」

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