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蒼いつき2
スーツに着替えて、姿見の前でネクタイを直していると、いたずら顔で何か言いたげなあきらと目があって、まさきは嫌な顔をした。
「やっぱそうしてスーツ着るとさ、それなりに社会人っぽく見えるな、おまえ」
やっぱりか…と、鏡の中のあきらを、キッと睨み付け、
「言うと思った。社会人っぽいって何ですかっ。俺は、れっきとした社会人。っていうか新卒でもないのに、その言い方って…」
「うんうん。その反応が可愛いんだよな~。おまえさ、ツンとお澄まししてさ、黙って立ってたら、年相応に見えるかもしれないぜ」
あきらは、くくく…とご機嫌に笑いながら、ネクタイをしめている。それを無言で睨み付けていたまさきが、ふいに表情を引き締め、彼に歩み寄ると
「ね…あきらさん」
「んー?」
振り返ったあきらのすぐ目の前に、いつのまにか立っていたまさきが、のびあがって、顔を更に近づけてきて
「ね…」
「っ…なに」
ドキっとするような艶っぽい表情で、上目遣いにあきらを見上げてくる。
…うわっ近いよっつか何、その顔、誘ってんのか、キス?しろってことか?
動揺しつつも思わず、うっすら開いた唇に、吸い寄せられそうになった瞬間、まさきの顔が遠退いて、ネクタイの結び目をぐいっとつかまれた。
「うっ」
「ネクタイ、曲がってます」
言いながら、えらく乱暴な仕草でグイグイと絞めあげてくる。
「ちょっ待てっ苦しいっ。わかったって、ごめんっ。からかって悪かった、すみませんって」
まさきはすました顔で、小首を傾げてみせて
「あれ?きつかったですか?」
言いながらネクタイをゆるめ、結び目を直して、あきらの胸を拳で叩いてから、ぷいっと背を向けた。
…いま、本気で絞めただろ。しかも何っあの顔。危うく誘惑されかけたし。こわっ。おまえ絶対、天然小悪魔だろ。
「おまえさ、そういう顔、誰にでもすんなよ」
「そういう顔って?」
「や、なんつーの?
……。いや、何でもない」
「変なの。それよりあきらさん、そろそろ電車の時間、やばくないですか?」
「あっもうこんな時間かよっ。急げっ」
「俺、もう準備出来てます。あきらさん、書類とか持った?」
まさきに指摘されて、あきらは慌てて押し入れから、ビジネスバッグを引っ張り出した。
「あっぶね~忘れるとこだった」
「もう…何しに行くんですか。俺いじって遊んでるからですよ」
「よしっ。んじゃ行くか」
あきらに促され、先に部屋を出たまさきが、階段の方に行きかけて立ち止まる。部屋のドアに鍵をかけて、後に続こうとしたあきらは、怪訝な顔をして
「どした?忘れ物か?」
まさきは振り返り、あきらの部屋のドアをじっと見つめて
「ね、あきらさん。俺、またここに来ても…いいですよね?」
「何だよ、改まって。いいよ、もちろん。こんなボロアパートでよけりゃ、いつでも遊びに来いよ」
まさきはぼんやりと微笑んで
「うん。…また来ます」
「んじゃ、行くか」
「はい」
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