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蒼いつき3

「なあ、まさき、疲れてるか?やっぱりちょっと引っ張りまわし過ぎた?」 ホテルのラウンジで、約束の時間にはまだ早いからと、コーヒーを飲みながら時間を潰していた。 まさきはなんだかぼんやりとしていて、あきらの話にもどことなく上の空だ。そういえば、電車に揺られている間も、窓の外を見つめている彼の表情には、覇気がなかった。 「あ…いえ、全然。なんか…楽しい時間ってあっという間だな~って」 そう言って、笑う顔にも元気がない。 「そっか…。でもおまえ元気ないよ。夕食、また今度にして、今日は帰るか?」 まさきは焦ったように首を横にふって、 「やっ大丈夫。ちょっと感傷に浸ってただけです。あきらさんと一緒に居るの、きっと楽し過ぎたから。もう終わっちゃうな~って思ったら…なんか…」 「ば~か。んな悲しそうな顔すんなって。また休みの日にでも会おうぜ。で、また楽し過ぎる時間、過ごせばいいだろ」 あきらは優しく微笑みながら、すっかり癖になったのか、手をのばしてまさきの頭を撫でようとして…かわされた。 「…おい。なんでそこで逃げるんだよ」 「だってここ、ホテルのラウンジです。他に人いっぱいいるし、せっかく髪、ちゃんとしてきたのに…」 「ちっ。感傷に浸ってたわりには、変なとこ冷静なのな、おまえ」 「…舌打ちしてるし」 くすくす笑い出したまさきに、あきらはほっとして、時計を確認すると 「お。そろそろ、時間だ。俺、ちょっと向こうの席に移るから、おまえはここで待ってな」 腰をあげかけたあきらに、まさきは慌てて立ち上がり、 「いえっあきらさんは、このまま居てください。俺、ちょっとトイレ行きたいし、ロビーの方で時間潰して…」 「まさき?」 ふいに横から名前を呼ばれて、まさきははっとして声の主の方を見た。 「あ~やっぱり君か。偶然だな、こんな所で会えるなんて」 にこやかに微笑んで、歩み寄ってきた男の顔を、まさきは呆然と見つめた。 「…貴弘さん…」 「最近ちっとも連絡をくれないから、私から誘おうと思っていたんだよ。 …ああ、失礼。お連れの方がいらしたのか。 …ん?君は…」 顔を強ばらせ、凍りついたように動かないまさきを、怪訝な表情で見上げていたあきらは、男の言葉にさっと立ち上がり、 「こんばんは、桐島さん。彼とお知り合いでしたか」 桐島と呼ばれた男は、あきらの顔をまじまじと見て 「早瀬さん…でしたね」 「はい。お忙しいところ、お呼び立てして申し訳ありません」 「いや。こちらこそ、わざわざここまで来てもらって申し訳ない。君がまさき…いや篠宮くんと知り合いだったとはね。今日はどうして一緒にここへ?」 まさきの様子が明らかにおかしい。あきらは眉をひそめ 「立ち話も何ですから、とりあえずあちらに行きましょうか。まさき、座って。ここで待ってて」 そっと肩に手を置き促すと、まさきはびくっと震えて、あきらをすがるような目で見上げた。 「いや。席を移る必要はないですよ。ここに座りましょう」 「え?いやでも」 「今日の報告内容は、篠宮くんに聞かれても何の問題もない。どうせ後で会った時に、ゆっくり話すつもりでいたんだから」 桐島はにこやかにそう言うと、まさきの隣の椅子に腰をおろし 「まさき、君も座って。」 まさきは、桐島の方を見て何か言いかけ、すぐに口をつぐむと、糸がきれたようにふらふらと腰をおろした。あきらも仕方なく、向かい側の席に座る。 桐島は手をあげ、近づいてきたウェイターにコーヒーを注文すると 「さて。早瀬さん。報告してもらう前に、伺っておきましょうか。篠宮くんと君は、どういうご関係かな。仕事での繋がりがあるとは思えないんだが」 さっきから、桐島の言い方には、いちいち険がある。穏やかに笑っているように見えて、目がまったく笑っていない。あきらは内心の苛立ちを抑え、にこやかな笑顔を返すと 「とても親しい友人です。夕べ一緒に飲んで、今日も1日休日を過ごしていたので、この仕事が終わったら、上で食事をしようと思って連れてきたんです。」 あきらの言葉に、桐島はかすかに眉をしかめ、まさきの方をちらりと見た。雅紀はすっかりうつむいてしまって、その表情は分からない。 「親しい友人…ね。雅紀、君は夕べ…」 「…っ貴弘さんっ」 まさきは弾かれたように顔をあげ、悲痛な声で桐島の言葉をさえぎった。 「ちがうからっ…彼はそうじゃない…し…知らない…から…」 だんだん消え入りそうな声になり、またうつむいてしまう。あきらには、まさきが何を言っているのかさっぱり分からなかったが、桐島はそれで何かを察したらしい。 「なるほど。ちょっと意外な組み合わせだったけど、お友達、なんだね」 納得いかない顔のあきらに、桐島はにっこり微笑んで、 「では、調査の結果を教えてもらえるかな?早瀬さん」

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