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第13章 蒼いかけら1

どうしよう……。まさか、あきらさんの仕事の相手が貴弘さんだったなんて……。 俺、めちゃめちゃ動揺しちゃったよな。 あきらさん…きっと変に思ってる…… 俺の態度がおかしいって。 普通にしてなきゃダメだって、わかってるのに。 顔があげられない。 あきらさんの顔……見る勇気ないよ……。 なんなんだよ。こいつ。 いちいち含んだような言い方しやがって。 まさきも、まさきだろ。 なんで黙って下向いちまってんだよ。 こいつと……どういう知り合いなんだよ。 「たかひろさん」って呼んでたよな。 どう見ても10以上は、年離れてんだろ。 そんな年上の男に、普通、名前呼びなんかするか? 親戚……とか。昔からの知り合い……? でもだったらなんで、まさきはあんな顔したんだよ。 あんな……辛そうな顔…… あきらは憮然とした表情を隠しもせず、ビジネスバッグからファイルを取り出して、テーブルの上に置いた。 「依頼人の貴方がおっしゃるなら、彼の前で報告させて頂いても構わないんでしょうが。 これ。かなりプライベートなものですよね。しかも決していい内容じゃない。 よかったら教えていただけませんか?貴方とまさきの関係を。」 あきらの言葉に、桐島は眉をあげ、ふっ…と笑って 「君はビジネスとして、私の依頼を受けた調査員だろう?依頼人が報告を受けるのに、誰を同席させようが、それがどんな相手だろうが、君には関係ないと思うけどね。」 ……っ。こいつっ その場の雰囲気が、一気に険悪になる。あきらが反論しようと身を乗り出すと 「あきらさんと同じっ」 唐突にまさきが叫んだ。 「は?」 ふいをつかれたあきらの口から、間の抜けた声が出る。 自分の出した声に驚いたのか、まさきは口を押さえ、キョロキョロとあたりを見回してから、声のトーンを下げ 「飲みに行った先で、知り合ったんです。月に2回ぐらい、食事したり飲んだり。そういう関係。友人。 ……ですよね?桐島さん。」 まさきの必死な形相に、桐島は表情をやわらげ 「ああ……そうだね。親しい友人、だ」 「それ、何の報告書か、俺は知らないけど、飲んだ時に話したりした内容だったから、俺が同席してても問題ない。 ……ってことですよね?桐島さん」 「まあ、そういうことに……なるかな」 相変わらず、含んだような桐島の言い方にイラっときたが、まさきの不意討ちに、すっかり毒気を抜かれたあきらは、乗り出しかけた体を、再び椅子に沈めた。 ……友人なら友人って、最初からそう言えよっ。 もったいつけるようなことじゃねえだろ。 しかも、俺と同じって何だよ、まさき。 こんな嫌味なヤツと、俺を一緒にすんなっての。 心の中で悪態をつきながら、ファイルから、報告書類と数枚の写真を取り出して、それを桐島とまさきの方に向けて並べる。 「わかりました。ではご報告します。電話でも話しましたが、こちらが依頼された浮気調査の、詳しい結果報告書です」 ……浮気……調査……? まさきはポカンとした顔で、目の前の書類とあきらのむすっとした顔を見比べてから、隣の桐島に視線を移した。 桐島は首をすくめて苦笑している。 「え…えと……浮気って……誰の?」 「もちろん。私の妻のだよ」 まさきは更に目を見開くと、もう一度、テーブルの書類とあきらを見比べた。 「え…奥さん……浮気してるの?」 「そうだよ。まあ、前から疑わしいことは多々あったんだがね。 私たちには子供がいない。それは前に君に話したよね」 「あ……はい」 「お互いに仕事も忙しいし、子供は出来ないなら気楽でいいと、2人とも納得済みのはずだったんだが。 昨年のクリスマスに、彼女が突然言い出したんだ。離婚して欲しいってね。しかも法外な慰謝料まで要求してきた。子供が出来ないのは私のせいだと言ってね」 まさきは下手に相づちをうつことも出来ずに、困惑顔で桐島を見つめた。 ……そらそうだろ。親しいっつったって、たかが飲み友達に、そんな重たい内容聞かされたってリアクションに困るっつーの。 だから先に確認したんだろーが。いけすかないヤローだぜ。 まさきの戸惑いっぷりが痛々しくて、あきらの桐島への内心の悪態は止まらない。 「ま。結果から申し上げますと、浮気はほぼ間違いないかと。詳しい調査内容はそこにまとめてあります。証拠になりそうな写真も何枚か撮りました。ご報告は以上です。ご請求書はかかった実費の活動費含めて、後ほどお渡しします。郵送をご希望ですか?手渡しの方がいいですか?」 とっとと終わらせようと、あきらは桐島の長くなりそうな愚痴話を遮り、桐島の顔を睨み付けた。 話しの腰を折られ、桐島は微かに眉をひそめたが、すぐににっこり笑ってみせて 「ご苦労様。さすがは田澤さんがご紹介くださっただけあって、君、仕事が早いね。請求書は自宅へ郵送で構わないよ」 「お褒め頂き恐縮です。では私たちはこれで失礼します。まさき、行くぞ」 

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