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後日談 『おしおきー56』
さっきまでの神妙な顔が嘘のように、悪い顔して笑う暁に、雅紀は嫌そうに顔を顰め
「むー……。その言葉、秋音さんに報告しちゃおうかな。秋音さんのおしおき、暁さんは、全然懲りてないみたいですーって」
「うわっまじか。それはやめてくれ~。いや、ちゃんと懲りてるって。今回のおしおきで充分反省してるよっ」
頭を抱えて焦り出した暁に、雅紀はくすっと笑って
「暁さんって……時々子供みたいだ。でも……そういう貴方も、俺、大好き」
しみじみと呟いて、暁の唇にそっとキスを落とす。
「ばーか……。また抱きたくなっちまうだろ。……煽るなよ」
雅紀は暁の顔に、愛おしそうに頬ずりしながら
「煽ってないし。暁さんのスケベおやじ。あれだけしたのにまだ……したいの?」
「俺はさ、おまえ限定でどスケベなのー。でも、さすがにこれ以上やると、明日動けなくなっちまうな」
雅紀はもう1度ちゅっとキスを落とすと
「今夜はもうおしまいです。また明日……俺のこと愛して。……ね?」
そう言って優しく微笑む雅紀の顔が天使過ぎる。
……うわぁ……デレてる雅紀って最高っ。ダメだろ、俺。骨抜きじゃん。
雅紀の可愛さに、うっかりまたむくむくしそうな愚息を宥めつつ、暁は雅紀をぎゅっと抱き締めて目を閉じた。
「おやすみ……雅紀」
「ん……おやすみなさい……暁さん」
翌日、2人ともちょっと朝寝坊して、朝食バイキングにギリギリセーフで滑り込むと、露天風呂で朝風呂を楽しんでから、ホテルを後にした。雅紀は名残惜しげにホテルを何度も振り返り、目を潤ませていた。
こうして、1年越しの新婚旅行のやり直しは無事に終了した。
昨年は、愛を確かめ合った直後に、暁がひき逃げに遭い、記憶が入れ替わり、長く苦しい日々が続いたが、今となってはそれも思い出のひとつだ。
今回の旅行で、お互いの想いを確かめ合い、改めて共に生きる未来を誓い合うことも出来た。
この先、何があっても、もう暁の心が弱くなることはないだろう。2つの人格を抱えて生きることは、確かにハンデになるのかもしれない。でも、雅紀がそれを当たり前のこととして受け止めてくれる限り、きっと何があっても乗り越えていける。
暁は、傍らの雅紀をそっと見た。
思えば最初からずっと、雅紀の愛情にはぶれがなかった。俺が秋音に、秋音が俺に。2つの人格のどちらが表に出ても、雅紀はその本質をしっかりと見つめて、変わらぬ愛情を持ち続けてくれた。
泣き虫で不安定で、自分のこととなると無防備で投げやりだった癖に、俺と秋音のことになると、まるで別人のように男前でひたむきで。
雅紀が大きな愛情でしっかりと包んでくれるからこそ、俺は自分の存在意義を信じたいと思えたし、自分をもっと大切にしたいと思えるようになれたのだ。
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