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後日談 『おしおきー57』
昨年も見た街道沿いの桜並木は、今年は満開に近かった。2人でカメラを取り出し、桜を撮ったりお互いを撮りあったり。観光気分を満喫してから、バスで仙山線の駅に向かう。
次の目的地は山形だ。旅費込みで長期休暇をもらう代わりに、田澤から命じられた、家出人探しとその他諸々の仕事。
入籍と結婚式のことは話したが、実はもうひとつ、秋音と相談した上で、雅紀には内緒にしていることがある。
将来、自分たちの店を持つ、という夢だ。
前に雅紀にちらっとこの話をした時は、自分の命がいつ奪われるかもしれないという状況だったから、まるで夢物語のような感じだった。そんな風に一緒に生きられたらいいな……という程度の漠然とした想い。
それが俄に現実味を帯び始めたのは、かたくりの群生地で、もう雅紀を泣かせたりしないと固く誓った翌日だった。
昨年の暮れに、秋音と雅紀は桐島大胡の招きを受けて、桐島家を訪れた。
秋音の家族の命を次々に奪った主犯の片岡修と、事後共犯の桐島麗華の裁判についての経過報告。入院している瀧田総一のこと。
後から来た田澤社長を交えて、ひと通り重たい内容の話が続いた後に、大胡の家政婦が用意してくれた料理を囲んでの、年越しの夕食会が始まった。
まだぎこちない大胡と秋音の親子としての会話に、和やかな雰囲気を作ってくれたのは雅紀だった。
普段は人見知りで、それほど積極的に話すタイプじゃないくせに、雅紀は大胡と秋音の間に入って、途切れがちな会話を一生懸命繋いでいた。大学生時代の秋音のことや、一緒に暮らし始めてからの秋音の様子。懸命な雅紀の話に、大胡は顔を綻ばせ目を細めて嬉しそうに相槌を打つ。そんな大胡と雅紀の様子に、秋音も徐々に緊張を解いて、いつしか穏やかな笑みを浮かべていた。
リビングに場所を移し、少々の酒も入り、和やかな団欒のひとときを過ごす。すっかり打ち解けて、大胡と直接会話を始めた秋音を、雅紀はとても嬉しそうに見守っていた。
やがて、大胡が秋音に静かに話しかけた。
「秋音。君にちょっと見せたいものがあるのだ。私の書斎に来てくれないかね?」
「見せたいもの……ですか」
穏やかだが、ちょっと改まったような大胡の口調に、秋音は首を傾げ、傍らの雅紀と顔を見合わせた。大胡は雅紀の方を見て
「篠宮くん。ちょっと……秋音をお借りするよ」
それは、秋音1人だけに用がある、という意味だろう。雅紀は微笑んで頷き
「わかりました。秋音さん、俺、ここで待ってるから、行ってきて」
少し不安そうな秋音に、雅紀はにこっと笑って促す。
「……ああ。じゃあ、行ってくる」
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