421 / 445

後日談 『おしおきー57』

昨年も見た街道沿いの桜並木は、今年は満開に近かった。2人でカメラを取り出し、桜を撮ったりお互いを撮りあったり。観光気分を満喫してから、バスで仙山線の駅に向かう。 次の目的地は山形だ。旅費込みで長期休暇をもらう代わりに、田澤から命じられた、家出人探しとその他諸々の仕事。 入籍と結婚式のことは話したが、実はもうひとつ、秋音と相談した上で、雅紀には内緒にしていることがある。 将来、自分たちの店を持つ、という夢だ。 前に雅紀にちらっとこの話をした時は、自分の命がいつ奪われるかもしれないという状況だったから、まるで夢物語のような感じだった。そんな風に一緒に生きられたらいいな……という程度の漠然とした想い。 それが俄に現実味を帯び始めたのは、かたくりの群生地で、もう雅紀を泣かせたりしないと固く誓った翌日だった。 昨年の暮れに、秋音と雅紀は桐島大胡の招きを受けて、桐島家を訪れた。 秋音の家族の命を次々に奪った主犯の片岡修と、事後共犯の桐島麗華の裁判についての経過報告。入院している瀧田総一のこと。 後から来た田澤社長を交えて、ひと通り重たい内容の話が続いた後に、大胡の家政婦が用意してくれた料理を囲んでの、年越しの夕食会が始まった。 まだぎこちない大胡と秋音の親子としての会話に、和やかな雰囲気を作ってくれたのは雅紀だった。 普段は人見知りで、それほど積極的に話すタイプじゃないくせに、雅紀は大胡と秋音の間に入って、途切れがちな会話を一生懸命繋いでいた。大学生時代の秋音のことや、一緒に暮らし始めてからの秋音の様子。懸命な雅紀の話に、大胡は顔を綻ばせ目を細めて嬉しそうに相槌を打つ。そんな大胡と雅紀の様子に、秋音も徐々に緊張を解いて、いつしか穏やかな笑みを浮かべていた。 リビングに場所を移し、少々の酒も入り、和やかな団欒のひとときを過ごす。すっかり打ち解けて、大胡と直接会話を始めた秋音を、雅紀はとても嬉しそうに見守っていた。 やがて、大胡が秋音に静かに話しかけた。 「秋音。君にちょっと見せたいものがあるのだ。私の書斎に来てくれないかね?」 「見せたいもの……ですか」 穏やかだが、ちょっと改まったような大胡の口調に、秋音は首を傾げ、傍らの雅紀と顔を見合わせた。大胡は雅紀の方を見て 「篠宮くん。ちょっと……秋音をお借りするよ」 それは、秋音1人だけに用がある、という意味だろう。雅紀は微笑んで頷き 「わかりました。秋音さん、俺、ここで待ってるから、行ってきて」 少し不安そうな秋音に、雅紀はにこっと笑って促す。 「……ああ。じゃあ、行ってくる」

書籍の購入

60
いいね
26
萌えた
11
切ない
0
エロい
28
尊い
リアクションとは?
コメントする場合はログインしてください

ともだちにシェアしよう!

この作品を読んだ人におすすめ

「君に誓う」スピンオフ! オメガバース駿河大公編
13話 / 11,462文字 / 40
2021/9/29
料理教室で始まった、手作りのご飯が紡ぐ恋物語。
6話 / 8,667文字 / 3
3/18
連載中
白の世界
歳の差10歳の、ゆっくりと進む大人の恋の話。年上敬語攻め×無愛想トラウマ持ちの青年
10話 / 14,855文字 / 2
2022/5/28
一夜の恋人のバーテンダーと会計士の秘密
2話 / 19,519文字 / 7
2019/11/26