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後日談 『おしおきー58』
大胡に続いて秋音も立ち上がり、2人は連れ立ってリビングを後にした。2人の出て行ったドアを見つめる雅紀に不安な様子はない。
「篠宮くんは、大胡さんが好きなんだなぁ」
「え? ……好き?」
驚いて振り返る雅紀に、田澤はにかっと笑ってみせて
「好きってのはそういう意味じゃねえよ。信頼してるってことだ」
田澤の言いたいことを理解して、雅紀は照れたようにはにかみ
「うん。俺、大胡さん大好きですよ。お話してるとすごく安心するんです。秋音さんに似てるし。やっぱり親子なんだなーって思います」
「まーだまだ、ぎこちねえ親子だがな。おまえさんのおかげで、少しは打ち解けてきてるんじゃねえか?」
田澤は、2人が心の距離を縮めて欲しいと、雅紀が願っていることをちゃんと分かってくれているのだろう。雅紀は嬉しそうに頷いて
「秋音さん、お父さんとのことで、ずっと苦しんできたし。もともと秋音さんは家族思いの優しい人でしょ。お父さんとのわだかまりも、ほんとは嫌なんだと思う。だから……2人には少しでも仲良くなって欲しいんです、俺」
「まあな。そう簡単に溝は埋まらねえだろうが……。俺もそう願ってるよ」
大胡の後について秋音が書斎に入ると、大胡は秋音に座るように促し、デスクの鍵のかかった引き出しから、書類の束を持ってきて、秋音の前に置いた。
秋音はちらっとそれに目を落としてから、大胡の顔を見上げ
「……これは?」
「父の……つまり君のお祖父さんの遺言についての書類だ」
大胡の言葉を聞いた途端、秋音の纏う空気がピンと張り詰めた。せっかく柔和になっていた表情も、固く強ばる。
「そのお話ならば、前にきっぱりとお断りした筈です」
「まあ、待ちなさい。もちろん、分かっているよ。祖父の遺産は一切受け取らない。相続は放棄する。それが君の意思だったな」
「ええ。その為の書類はもう既に準備してあります。俺の気持ちは変わりません」
頑なになってしまった秋音に、大胡は穏やかに微笑んで頷くと
「君の気持ちはよく分かった。私もそれでいいと思うよ」
「……では何故……今更またその話を蒸し返すんです」
「うん。では順を追って話そう。父の遺言では、この遺産の相続は、自分の血と息子の私の血を、正統に受け継ぐ直系の孫に……ということだった。そうすると権利があるのは君と貴弘だ」
「……はい」
「貴弘は自らDNA鑑定をして欲しいと望んでな、その結果が出たんだ。……残念だが、私と彼の間に親子関係は99.9%以上存在しない……という結果だった」
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