427 / 445
後日談 『おしおきー63』
さすが暁……というべきなのか。そんな考え方は、自分にはまったく思いつかなかった。
増資とか投資とか、そういう分野のことは、詳しく知らない。相続した遺産をそういう形で使えるのかどうかも、専門家に相談してみなければ分からない。
ただ、大胡と話をしていた時に感じた違和感。どうして孫の自分が相続放棄したら、それが父親の大胡にいくことにならないのか。何故、祖父はそんな筋の通らない遺言状を残したのか。
その納得のいかない違和感に、暁の考え方は真っ当な筋道をつけてくれる気がした。
大胡にしても貴弘にしても、祖父から受け継いだ会社を存続させようと、必死で頑張っているのだ。祖父の遺産をその2人の手助けに使えたら、それが1番いいような気がする。
自分の人生に、会ったこともない祖父の遺産なんて必要ない。自分たちの将来の資金は、自分たちで努力して作っていけばいい。自分も雅紀もまだ若いのだ。2人で力を合わせれば、きっといつか夢に手が届く。
……よし。田澤さんにも相談してみて、1番いい方法を見つけてみよう。
ずっともやもやしていた気持ちに、ようやく踏ん切りがついた。
貴弘が、過去の枷に囚われずに前向きに生きようとしているのなら、こちらだって負けないように前を向く。全ての膿を出し切ったのだから、後は快方に向かうだけだ。
「雅紀、おいで」
自宅に戻って風呂に入った後、秋音の考え事の邪魔をしないように、向かいの椅子で静かに本を読んでいた雅紀が、秋音の呼びかけに顔をあげる。気遣わしげな目でじっと秋音の顔を見つめ、その表情にほっと安堵の笑みを浮かべた。
「悩み事……解決しました?」
秋音は微笑んで頷いた。
「ああ。今、暁にちょっと知恵を借りたんだ。おまえにも話を聞いて欲しい」
雅紀は嬉しそうに頷くと、立ち上がって秋音のいるソファーに歩み寄る。秋音は雅紀の手を掴んで引き寄せ、自分の膝の上に座らせた。
「心配させてごめんな」
「ううん。……良かった。秋音さん、表情が明るくなったし」
秋音は雅紀の小さな顔を両手で包み、鼻の頭にそっと口づけると
「そうだな。ようやくいろいろと吹っ切れてきた。聞いてくれるか?」
雅紀はくすぐったそうに首を竦めて
「うん。聞かせて。暁さんとどんなお話してたんです?」
「実はな……」
秋音は書斎で父に言われたことから順を追って、雅紀に話し始めた。
書籍の購入
コメントする場合はログインしてください
ともだちにシェアしよう!