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後日談 『おしおきー64』

暁と雅紀に相談した上で決めた内容を、まずは田澤社長に話してみた。田澤は知り合いの専門家と検討した上で、桐島大胡に話を持ちかけた。 最初、大胡は自社の増資の話には難色を示したようだ。そんなつもりで秋音に相続を勧めた訳ではないと。だが、田澤が粘り強く説得してくれて、後日、秋音とももう1度会ってじっくりと話し合う機会を持った。 祖父の遺産を生き金にするのであれば、それは桐島の会社の経営を立て直す為に使われるのが最良だと主張する秋音に、大胡はやはりそれでは筋が違うと激しく反論した。 だが、秋音の「桐島家とか貴方の為ではない。貴弘の為に、この遺産を使って欲しい」という言葉に、大胡は息を飲み、声を詰まらせた。 自分の出生と実の父母の犯した罪を知り、貴弘は苦悩しながらも、必死に大胡の手助けをしてくれている。 どれほどショックで苦しいだろう。気丈に振る舞っていても、日々悩みもがいている貴弘の姿を、大胡はすぐ側でずっと見てきているのだ。 今、増資が出来れば、貴弘が独立する為に準備していた新規事業の立ち上げに、ゆとりを持って資金を投入出来る。ぐらついた母体を立て直す為に、貴弘はそれを立ち上げて、何とか軌道に乗せ、桐島の会社の新しい軸にしようと奔走しているのだ。 今の状況に秋音の申し出はたしかにありがたいが、果たして貴弘がそれを素直に受けるだろうかと悩む大胡に、秋音は頷いて「援助の為の資金だといえば、プライドの高い彼は絶対に受け取らないでしょう。だからこれは、俺の投資が目的で、あくまでもビジネスだと伝えてください。その方が意地でも成功させようと、あの人も頑張れるはずです」そう言って微笑んだ。 その言葉で、大胡はようやく折れ、渋々ではあるが、秋音の申し出を受け入れた。 最後に大胡は、会社に資金を投入するのであれば、秋音自身も何らかの形で会社の経営に携わった方がいいと勧めたが、秋音はきっぱりと断った。 貴弘への配慮から、ビジネスの為の投資だということにはするが、秋音自身は桐島の会社とは深く関わるつもりはない。秋音の気持ちとしてももちろんだが、大胡と血の繋がりがある自分が会社にこれ以上関われば、貴弘は己の生まれに引け目を感じてしまうだろう。せっかく上手くいっている貴弘と大胡の関係に、水を差すようなことはしたくない。 こうして、大胡との話し合いも無事にまとまり、秋音は祖父の遺産を相続した。相続にも会社への投資にも、いろいろと面倒で煩雑な手続きがあったが、春前にはそれらも無事終わり、かたくりの群生地で、暁の件も決着した。 秋音と雅紀に、大胡から自宅への招待の連絡が来たのは、その翌日のことだった。

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