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後日談 『おしおきー65』

「今日は秋音ではなく、暁くんか。よく来てくれたね」 「お久しぶりです。こちらこそ、お招きありがとうございます」 「こんにちは、お邪魔します」 ぺこりと頭をさげた雅紀に、大胡は優しく微笑んで 「ああ。こんにちは。篠宮くんも元気そうで何よりだな。さ、あがってくれ」 穏やかに微笑む大胡に続いて、暁と雅紀がリビングへ入ると、そこには思いがけない人物がいた。貴弘だ。 あの日病院で別れてから、暁も雅紀も、貴弘には1度も会っていない。もう2度と会うことはないと思っていた貴弘の突然の出現に、先にリビングに入った雅紀が息を飲んで立ち止まる。暁は急いで雅紀の傍らに歩み寄った。 「大胡さん、どうして……彼がここに?」 「すまないな、2人とも。さっき偶然、家に訪ねて来たんだ。今日は君たちを呼んでいるからと言ったんだが、どうしても直接会って話がしたいというのでね。不意打ちになってしまって申し訳ない」 謝る大胡の表情を見ても、別に他意はなさそうだが、リビングに入る前に、せめてひと言教えてくれればよかったのに……と、暁は内心思った。 「父は悪くない。言わないでくれと、私が父に頼んだんだ。もしかしたら、会ってもらえないかもしれないと思ってね」 暁の気持ちを察したのだろう。貴弘はすかさずそう言うと、ゆっくりと2人に近づいてきた。 言葉もなく自分を見つめる雅紀に、貴弘は遠慮がちに微笑んで 「久しぶりだね、雅紀……いや、篠宮くん。元気そうでよかった」 「……貴弘さん……」 貴弘は、病院で最後に会った時より痩せていた。でも顔色は随分と良くなっている。雅紀はほっとしたように微笑んで 「お久しぶりです。貴弘さんもお元気そうで良かった」 雅紀の屈託のない笑顔に、傍らの暁もほっと緊張をといた。 「突然で済まなかったね。だが、1度君たちにきちんと会って、話がしたかったんだ」 「そこで立ち話もなんだな。3人とも、向こうで座ったらどうだい?」 大胡の言葉に3人は頷いて、リビングのソファーに向かった。暁は雅紀の隣に座り、向かい側に大胡と貴弘が腰をおろす。 「まずは改めて謝罪させてくれ。秋音。私の父母がおこしてしまったことで、君の大切な人たちの命が犠牲になったこと……。心から申し訳ないと思っている。この罪は息子の私も一生背負って生きていく。どんなことをしても償いにはなるまいが……本当に申し訳なかった」 貴弘はそう言って、深々と頭をさげた。

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